最終更新日: Saturday, June 23, 2001
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草の葉

Leaves of Grass
ウォルト・ホイットマン 著
翻訳:志木和美<rtw@pos.to>

Copyright©2000 SHIKI Kazumi(志木和美)
本翻訳は、この版権表示を残す限り、 訳者及び著者に対して許可をとったり使用料を支払ったりすること一切なしに、 商業利用を含むあらゆる形で自由に利用・複製が認められます。
プロジェクト杉田玄白 正式参加作品。詳しくは、プロジェクト杉田玄白<https://genpaku.org/>参照のこと。

日本語訳における誤り、不明な点などは訳者まで。
最善の注意を払ってはいますが誤訳の可能性があります。

目次


 さあ、と 私のこころが云った、
 私の肉体から出でたこの詩編を 私たちに記そう(私たちが一つであるために)、
 私は後から戻ることになるだろう、
 また、長い長い時を経て、他の天地で、
 そこで、仲間たちとの唱和を再び始めるために、
 (地球の土、木、風、荒々しい波と同じくする)
 いつでも私が投げかけている うれしい微笑をもって、
 いつでも、まだ、詩編を持っていない、初めて私が来たときのように、
 心と体に刻む、君たちに私の名前を刻み込む

 Walt Whitman

1.碑詩(INSCRIPTIONS)

人そのものを私はうたう(One's-Self I Sing)

 人そのものを私はうたう 素朴な一つの人を
 それにもかかわらず、口にする、民主的という言葉を、大衆の中にという言葉を

 頭のてっぺんから、足のつま先まで、生きているものの理を 私はうたう
 ただ表装だけではない、ただ頭脳だけでもない、それだけではミューズにとっての価値はない、私は云う、
  そろった形相(けいそう)こそ、はるかに価値があるのだと
 女性を男性と同様に 私はうたう。

 生命は、すばらしい情熱、鼓動、そして力、
 快活な、すばらしい法則、自らの意思による行動から起された
 今に生きる人を 私はうたう

私が沈黙の中で、じっくりと考えたこと(As I Ponder'd in Silence)

 私が沈黙の中で、じっくりと考えたこと―――
 自らの詩作について立ち戻り、思い熟慮し、長くためらい、
 ある幻影が信じがたい様相で私の前にあらわれた、
 美しく、年老いた、威厳のある恐ろしさであった、
 古代の国々の奇才の詩人たちは、
 その燃えるような射る目を私に向けているようだ、
 多くの不朽の詩編を指さしながら、
 そして、威厳堂々とした声で、 汝は何をもって最上とうたうか? と言った、
  汝は知っているか、永遠不滅の詩人にとってただ一つのテーマより他に存在しないことを、
  それは、闘うことへのテーマであり、闘いの運命であり、
  完全なる闘士の育成なのだ

 それはそうであろう と、私は答えた、
 私もまた同様に傲慢な影を、闘いをうたう、なにものよりも長く偉大な闘争を、
 それは私の本の中で行われ、刻々と変わる運命、同時に逃走、前進や後退、勝利を先延し、揺らめく、
 (まだ確信はできないが、しかし最後にはうまくいくと確信するのだが)この戦場で、この世界で、
 生と死を賭けて、この体と、この永遠なる魂を賭けて、
 見よ、 私もまた進むのだ、闘争のうたを高らかにうたいながら、
 私はあらゆるものの上で、勇敢な闘士たちを鼓舞するのだ

海上の客船で(In Cabin'd Ships at Sea)

 海上の客船で、
 どの方向も果てしのない海の青が広がっている、
 口笛のように鳴る風や 波の音や 傲慢な波浪の音とともに、
 あるいは 濃密な海に浮ぶ 孤独な帆船、
 そこでは喜び確信に満ちた、白い帆を広げる、
 船はきらめきの中を、日中の泡を、夜の星空の下を、エーテルをかき分け、
 偶然にも若い船員と年老いた私によって、陸地を回想し、読ませるだろう、
 最後には心が通いあって調和するように。

 ここは私たちの思い、航海者の思いがある、  /ボイジャー
 ここは陸地、しっかりとした大地だけが見えているのではない、と彼らに云われるかもしれない、
 空はここに大きく円弧を描いて、私たちは足もとの甲板にうねりを感じ、
 長く感じる脈動、永遠の潮の満ち引きを私たちは感じる、
 目で見ることのできない神秘の音色、漠然と広大な海の世界を感じさせる流液な音節の集まり、
 香芳、索具のふとした軋み、憂鬱な周期的揺れ、
 無限の見晴らし、遠く薄暗い地平線は全てここにある、
 そして、これこそ大洋の詩なのだ

 そう、その時こそ、本よ、躊躇ってはならない、それが君の使命なのだ、
 君は 陸地の思い出だけのものではない、
 君もまたエーテルをかき分ける孤独な帆船、どこへ行くことを意図したかわからない、それにもかかわらずいつも信念に満ちている、
 帆走する全ての船と一緒に、君は奔走するのだ!
 折り重なった私の愛を彼らの元へ届け、(親愛なる船乗りたちよ、君たちの為に私は1ページ1ページにそれを折り重ねるのだ)、
 私の本よ、急げ! 君の白い帆を広げ、傲慢な波浪に逆らう、私の小さな帆船、
 詠唱を、航海を、どこの海へでも私から果てしのない青を越えて運べ、
 船乗りと全ての船のために、このうたを

諸外国へ(To Foreign Lands)

 この「新世界」といういくつかの謎を証明する何かを要するのを私は聞いた、
 それは、アメリカの定義、その逞しい民主主義、
 だからこそ、私は君に私の詩編を贈る、そこに君が求めている何かがあるのだから

歴史家へ(To a Historian)

 過ぎ去りし日をほめたたえる あなた、
 外面を、人種の表面を、それそのものの営みのみを探求する あなた、
 人を政治の、集合の、支配者の、聖職者の奴隷と見なしてきた あなた、
 私は、アレゲーニー山脈の住人、彼らは彼ら自身の権利を彼らそのものであると見なしながら、
 めったに現われることのない生命の躍動を形にし、
 (それは、人自身の偉大な矜持)、
 人間の存在をうたうものとして、いまだならざるものの輪郭を、
 私は未来の歴史を描きだす。

古き主張の汝へ(To Thee Old Cause)

 古き主張の汝へ!
 汝の比類なき、情熱的で、立派な主張よ、
 汝の厳格なる、無慈悲で、甘美な観念よ、
 代々、民族、国々をくぐり抜け、
 異様な、悲しい争い、汝故の大戦が終っても、なお不滅な、
 (私は考える、これまで実に行われてきた争いも、そしてこれから行われる争いも、全て汝のためなのだと、)
 これらのうたは汝のために、汝の永遠の行軍のために。

 (争いは、そう、闘士たちよ、それ自身のみではなく、
  遥かにまだ多くのものが静かに立ち潜んでいるのだ、今にこの本にも出てくるであろう。)

 汝、多くの天体の中の天体よ!
 汝は揺り動かす法則! 汝はよくよく守られ、潜在する兆し、汝が中心!
 汝の観念を中心に、争いは流転し、
 全てはその怒りと、激しい主張の交差を以て、
 (千年に三度来る大いなる結果とともに、)
 これらの叙唱を汝へ、 私の本と この争いは同じものである、
 汝の正当性と同じくして、この魂と私は融合し、
 あたかも、車輪が軸を中心に回転するように、この本はそれ自身とは知らずに、
 汝の観念の周りを回転する。

幻影たち(Eidolons)

  私は「幻影を見る者」に会った、
 束の間の 色合いと この世界の客体、
 芸術、学問、楽しみ、感覚の平野を、
  幻影をひろい集めるために通りすぎる。

  汝、うたいあげよと 「幻影を見る」その者は云った、
 もうこれ以上 惑わされる 時間と日々、断絶と部分はなしにしよう、
 すべての光明 すべてを引き寄せるうたを はじめに人々へうたおう、
  幻影のうたを。

  いつも 薄暗い始まり、
 いつも 成長、円を廻り、
 いつも 最後には究めゆく融合と、(ふたたび 間違いのない旅立ちのために)
  幻影よ 幻影たちよ!

  いつも 無常、
 いつも 実体は、変容、崩壊、再結合し、
 いつも アトリエは、神の因子は、
  幻影たちを発する。

  そう、私も君も、
 女も、男も、国家も、知られていようと、知られていまいと、
 みな 固形の富、力、美しさを構築しようとしているが、
  その実 幻影を組み立てているのだ。

  外形は束の間、
 芸術家の感情、あるいは 学者の長年の研究、
 あるいは、戦士の、殉教者の、英雄たちの労苦の実体は、
  おのれの幻影を形作ることなのだ。

  どの人生もみな、
 (全てを集め、並べ、 考え、感動、功績を一つなりとも取り除かれることはない)
 その全て、あるいは大きな、あるいは小さな合計は、意味を成す、
  その幻影の中で。

  昔の、昔ながらの衝動、
 老齢の嶺々を礎に、そう、新しき、高き嶺々を、
 科学と新しい時代から、押し遣り続ける、
  昔、昔ながらの衝動、幻影たち。

  今、ここにある今、
 アメリカのにぎやかで、ごった返す、複雑な目まぐるしさ、
 集合と分離を それだけのために解き放たれる、
  現代の幻影たち。

  これら過去とともに、
 消えてしまった国々、海を向こうに すべての統治者の時代の、
 昔の征服者、昔の遠征、昔の船乗りたちの航海は、
  交わる幻影たち。

  密集し、発展する、外見、
 山の地層、土、岩、大樹、
 遠く生まれて、遠く消えゆき、長らく生きて、後にする、
  永遠の幻影たち。

  称揚され、こころ奪われる、恍惚、
 目に映るもの、それらは子宮から生まれるのみ、
 円の軌道が 形作り、形作り、形作るものは、
  力強い世界の幻影。

   すべての空間、すべての時間、
 (星星、恒星の凄まじい摂動は、
  膨張し、崩壊し、終焉し、それらの長く、短い役目を果たす、)
   それらを満たすのは 幻影たちのみ。

  音もなく 無数の、
 果てしない 海洋 川の流れ行く先、
 分け隔てられた 無数の自由な主体、 視界のように、
  正真正銘の 事実は、幻影たち。

  この世界ではなく、
 これら世界でもない、彼らが世界なのだ、
 話の結末は、常に永続する生命の生、
  幻影たち、幻影たちよ。

  汝、碩学の教授の講義より 遥か遠くに、
 汝、精鋭の観察者の望遠鏡や分光器より 遥か遠くに、すべての数学より 遥か遠くに、
 医者の手術、分析よりも 遥か遠くに、科学者のもつ科学よりも 遥か遠くに、
  実在の実体、幻影たち。

  固定されず、なお 固定され、
 いつも あるし、いつも あったし 今も あるだろう、
 現在を無限の未来へと押し流す、
  幻影たち、幻影たち、幻影たちよ。

  予言者と詩人は、
 いまなお 彼ら自身を保ち続けているのだろう、高みの場所からにおいてでも、
 現代へ、民主主義へ、仲立となり、なお 彼らに解き明かすのだろう、
  神と幻影たちを。

  そして 汝に 私の魂は、
 遊回し、絶え間ない行動と称揚を、
 汝の思慕は 十分に蓄えられ、ついには 出逢うためのこころ構えも調えられた、
  汝の仲間、 幻影たちに。

  汝の不滅の肉体は、
 その肉体は 汝の肉体の中に その中に潜伏し、
 汝はその形の意味に過ぎない、真の私は私自身であり、
  一つの印象、一つの幻影なのである。

  汝のまさしくうたは 汝のうたのなかにはなく、
 うたの特別の旋律ではなく、それそのもののためでもなく、
 ただ すべての結末から、ついには昇り、浮かび上がる、
  すべてを包みゆく環の幻影のために。

彼のために私はうたう(For Him I Sing)

 彼のために 私はうたう、
 私は過去の上に現在を打ち立てる、
 (多年生の高木がその根から、過去の上に現在を打ち立てるように、)
 時間と空間とともに 私は彼を 永遠の法をもって 推し広げ 融合させる、
 彼らの法を以て 彼自身は 彼自身になるのである。

私がその本を読んだとき(When I Read the Book)

 私がその本を、 その名高い伝記を 読んだとき、
 (私は云った) そこにある その偉人の人生が その著者が 称する人生なのかと、
 そうして 私も死ねば 同じように 私の人生を記されるのか? と
 (もしそうであるならば 私の人生の何を 知っているというのだろう、
  私自身でさえも よく考える 少し あるいは まったく 私の本当の人生を 知っているのかと、
  わずかな手がかりだけ、わずかに 行き渡った 細い糸と頼りない地図を、
  私は 私自身のために ここから書き記す。)

私の研究の始まり(Beginning My Studies)

 研究の初めの一歩が 私を満たした、
 ほんの事実という意識、それら肢体、動きの力、
 微細な昆虫や動物、それらの感覚、視界、慈愛、
 この初めの一歩が 私の言う 畏敬であり それが私を満たしたのだ、
 それ以上 どう進めば どう思えばいいのかわからないほど、
 ずっと 立ち止まって 道草を編み 夢中になって ただうたに込めたいと願うばかり。

創始者(Beginners)

 (時折現われるときに)この世界で彼らは如何な処遇を受けているか、
 この世界で彼らは如何に大事で畏怖すべき人々であるか、
 彼ら自身が如何なることにも自らの鍛えとする―――何たる逆説 彼らの現われる時代、
 人々は彼らに応えながら、如何にまだ彼らを知り得ないことか、
 いつも 彼らの運命は 如何に過酷であることか、
 いつの時代も 世辞や報酬の対象を 如何に選び間違えていることか、
 そして 如何に同様の冷酷な代償が 同様の偉大な代償として 支払われ続けねばならないことか。

合衆国へ(To the States)

 合衆国 あるいは誰か、あるいは どこかの合衆国の都市へ、大いなる抵抗と、小さな服従を、
 一度でも 絶対的服従、一度でも 完全な奴隷に、
 一度なりとも 完全な奴隷になれば、この世界の 国民の、州の、都市の自由は
  二度と取り戻すことは出来ないだろう。

合衆国中を旅して(On Journeys Through the States)

 合衆国中を旅することを始める 私たち、
 (そうだ この世界を通って、これらのうたに後押しうながされ、
  これから どこの国へでも どこの海へでも 航海し、)
 私たちは 厭わずすべてから学び取る、すべてが先生で、そして すべてが恋人である。

 私たちは 四季が 自身をまき散らし 通りすぎる様を 眺め遣り、
 そして 云うのだ、 男も女も それら四季とおなじくらい 自身をまき散らすべきではないか? と、

 私たちは あらゆる都市や街に しばし住みつき、
 私たちは カナダ、北東部、ミシシッピの広大な流域、南部の州を 通り抜け、
 私たちは 各々の州と 対等に話し合い、
 私たちは 自らの試みを設け、男や女の意見を求め招く、
 私たちは 自身に、思いとどめ、怖がらず、素直に、この体と魂を広め、
 しばし住みつき そして通りすぎ、豊かながら、節制し、簡素ながら、惹きつけ、
 そうして 四季が巡り行くのと同じように あなたのまき散らしたものが戻るかもしれない、
 まさに四季と同じように。

とある歌姫へ(To a Certain Cantatrice)

 これを、この贈り物を受け取ってください、
 それは幾許かの英雄、雄弁家、将軍の為に、
 古き良き主張、素晴らしき考え、仲間の進捗と自由のために仕える人の為に、
 独裁者に真っ向から立ち向かう数少ない、数少ない勇気ある反抗者の為に とっておいたもの、
 しかし 私は わかったのです 私がとっておいたものは まさにあなたにこそふさわしいということが。

不動の私(Me Imperturbe)

 不動の私、 自然で気楽に立っている、
 すべての王者 あるいはすべての女王、道理のない物事の真ん中で落ち着き、
 彼らのように染まり、彼らのように消極的に、受入れ、沈黙している、
 私の職能、貧困、評判、弱点、罪は、 私が考えるほどには大事ではないと知り、
 私も メキシコの海、あるいはマナハッタ あるいはテネシーの、あるいは遠く北へ 奥地へめざし、
 川に住むもの、あるいは森に住むもの あるいはどこかの州で農場の暮らし あるいは沿岸、湖 あるいは カナダで、
 私 たとえどこで生活しようと、そうとも どんなことが起きようと悠泰然でありたい、
 夜や、嵐や、飢えや、嘲笑や、事故や、拒絶にも 樹々や動物のように 悠然と立ちむかおう。

道理主義(Savantism)

 そちらへ私が目を遣れば それぞれの結果と名誉が見て取れる それ自身をさかのぼっては
  心地よく身を落ち着け、いつもありがたく思い、
 そちらへ時間、日々、時代―――それらの貿易、契約、
  建てられるもの、もっとも微細なものさえも、
 そちらへ毎日の生活、雑談、道具、政治、個人、地所が、
 そちらへ私たちもまた、 私は 信頼し、賞賛に満ちた、葉とうたを携えて、
 父親が自分の父親のところへ 自分の子どもを連れ立つように。

出航(The Ship Starting)

 見よ、この際限のない海を、
 波間を切って船が動きはじめる、帆をすべて広げ、ムーンスルも掲げ。
 旗は 船が速度を増すごとに高くなびき 堂々と疾走し――
  下で競争する波が 前へ押し出す、
 輝き うねる動きと 泡が 船を取り巻きながら。

アメリカの歌声が聞こえる(I Hear America Singing)

 アメリカの歌声が聞こえる、さまざまなキャロルを 私は聞く、
 機械工たちのキャロルを、それぞれが朗らかに 力強くうたう様を、
 大工が 板や梁の寸法を測りながら うたうのを、
 石職人が 仕事の準備ながら 仕事を仕舞ながら うたうのを、
 船頭が 導く船の中で うたうのを、水夫が 蒸気船の甲板で うたうのを、
 靴屋が 作業台に座りながら うたうのを、帽子屋が 立ちながら うたうのを、
 木こりのうたを、農夫が 朝の道すがら、昼休みや日没に うたうのを、
 母の、仕事をする若妻の、裁縫や洗濯をする女の子の、気持ちのいいうた声、
 それぞれが 彼や彼女に属し 他に代えがたい うた、
 昼には昼にあるべきうたを―――夜には若者の頑健で友好的な仲間が、
 口を開けて 彼らの力強い旋律美しいうたをうたうのを。

どこが包囲されたのか?(What Place Is Besieged?)

 どこが包囲されたのか? その包囲を解こうと徒に試みをしているのは誰だ。
 それ、私がそこへ 指揮官を派遣しよう 速やかで勇敢な不滅の指揮官を、
 騎兵と歩兵も一緒に、集積した大砲も、
 必ず仕留める砲手もだ。

そのひとつを私はうたう(Still Though the One I Sing)

 それでもやはり そのひとつを私はうたう、
(ひとつ、それは矛盾でつくられた)私は国民に捧げる、
 私は彼に反抗を残しておく、(そうだ 密かに反乱の権利を! 抑えることのできない、不可欠の火を!)

扉を閉ざしてはいけない(Shut Not Your Doors)

 扉を閉ざしてはいけない 誇り高き図書館よ、
 すべてに十分満たされた書架に不足している、もっとも必要とされるであろう本を、私は持っていくのだ、
 戦争をくぐり抜け、一つの本を私は創り出した、
 その本には言葉はなく、いたるところに流れ着き、
 本は孤立して、やすらぎとも知性にも触れも結ばれもしない、
 だが どのページも 君たちには 計り知れない 深い驚きを導くだろう。

未来の詩人たち(Poets to Come)

 未来の詩人たち! 未来の雄弁家、歌い手、音楽家たちよ!
 今は 私のことを正しく評価し、私がなにかを答えるものはない、
 しかし 君、未だ知られていない 新しき血、土着の、逞しき、大陸の、偉大なる君、
 喚起せよ! 君こそ 私を正しく評価できる。

 私自身の ひとつ あるいは ふたつ 未来を暗示する言葉を 書き記したに過ぎない、
 ただ少し 闇の中へ入り 動かし 急ぎ転じるに過ぎない。

 私は留まることなく、君に何気ない視線を向けたり避けたりしながら、
 それを君に 証明するために 明らかにするために残していく、
 肝心なことは 君に期待しながら。

君へ(To You)

 見知らぬ人よ、 君が通りすぎるとき 私に話しかけたいと思えば、なぜ 話しかけてはいけないのだ?
 私は 話しかけてはいけないのだろうか?

読者子(Thou Reader)

 汝、読者は私と同じく、ドキドキした生活と自尊心と愛が大事である、
 それゆえに、汝のためにうたい続けるのだ

2.パウマノクを出発して(Starting from Paumanok)

1

 パウマノク、魚の形をした、私の生まれた地を仲立ちとして、
 みごとに育まれ、申し分ない母に育てられ、
 それから あてもなく国々をさまよい、人がひしめく街頭を好み、
 私の街 マナハッタ、南部のサバンナの住人、
 露営する兵士 背嚢や火器を手に持ち、カルフォルニアでは坑夫、
 ダコタの森で、節制、肉と泉の水をもって暮らし、
 どこかの奥地で 静かに浸り 瞑想をしたり、
 ざわめく群衆を通りすぎて 恍惚と幸福、
 生き生きと自由な寄贈者 なだらかなミズーリを知り、力づよいナイアガラを知り、
 平地で草を食むバッファローの群れを知り、毛深く胸逞しい雄牛、
 大地、岩、第五月の花をよく知り、星、雨、雪に感動し、
 マネシツグミの鳴き声と山鷹の飛翔を、
 夜明に聞こえる無類の、湿地杉からひとりツグミの声、
 私もひとり、西部に歌う、新世界のために歌いはじめる

4.アダムの子どもたち(CHILDREN OF ADAM)

おお、ヒュメン! ああ、ヒュメナイ!(O Hymen! O Hymenee!)

 おお、ヒュメン! ああ、ヒュメナイ! どうして このように 私を焦らし苦しめるのですか?
 ああ なぜ 瞬く少しの間だけしか 駆り立てないのですか?
 なぜ 続けることが出来ないのですか? ああ なぜ 今 終らねばならないのですか?
 瞬く少しの間を越えると 間違いなく 私を殺してしまうからですか?

5.菖蒲(CALAMUS)

見知らぬ人へ(To a Stranger)

 通りすがりの見知らぬ人よ! 君は知らないだろう、私がどんなに思慕の眼差しで君を見ているか、
 君は私が探していた彼かもしれない、あるいは彼女かもしれない、
  (夢の中ようにそんなことが思い浮ぶ)
 私はどこかで間違いなく、君と喜び暮らしていただろう、
 すべては 私たちが互いにふと すれ違えば 思い出す、流れるような、優しい、
  飾りのない、満たされた思いが、
 君は 私と一緒に育った、私と一緒に少年だった 私と一緒に少女だった、
 私は 君と一緒に食べ 君と一緒に眠り、君の体は 君だけのものではなくなり
  私の体も 私だけのものとして残しておくことは出来なかった、
 私たちは行きずりに、君が私に 君の目、顔、肉体、という楽しみを与え、
  君はお返しに 私のあごひげ、胸、手を楽しむ、
 私は君と話すのを止め、私は君のことを考える 私が一人で座り あるいは
  君が夜を一人歩く時分のことを、
 私は 待とう、私は 君とふたたび再会することを疑わない、
 私は 君を失うことのないよう 見つめていよう。

39.さらばまた、私の空想(GOOD-BYE MY FANCY)

「草の葉」の趣意は(L. of G.'s Purport)

 締め出したり、分け隔てたりするのではなく、多くの群衆から邪悪を見分けるためでもなく(ましてや群衆に曝すためですらない)、
 それさえも 加えて、溶かし、完全にし、伸張する―――不朽と幸福を祝うために。
 思い上がった このうた、この言葉と ここから見えるもの、
 空間と時間の その広大な領域におよび、
 移り変わり―――積み重なり―――成長し 同じ時を生きる人々に及ぶ。

 まずは成熟した若さと着実なる追従から始まった、
 さまよい、じっと見つめ、すべてを玩び―――戦争、平和、昼と夜を吸収し、
 ほんの短い時間さえ 自身の仕事を捨てたりせず、
 病気と貧困、老いの中 ここに仕事を終える。

 私は 生をうたいつつ、それでも 死について よく思いとどめ、
 今 薄暗く死の影が 私のあとをつけ回る、 座する私の姿に、 幾年かこうで―――
 ときには近づいてくる、 面と向かい合うように。

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