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ファラデー『ロウソクの科学』

第 6 章 呼吸はなぜ燃えるロウソクと似ているか。



 光栄にもこの講義に顔を出してくださっている女性が、さらにこの二本のロウソクを送ってくれてプレッシャーをかけてくださいます。このロウソクは日本からのもので、おそらくは以前の講義で触れた物質でできているはずです。ごらんのとおり、フランスのロウソクよりずっと手のこんだ装飾がしてあって、たぶんこの様子から判断すると、装飾用のロウソクなんでしょうね。こいつには、非常にかわったところがあります――芯が空洞になってるんですよ――これはアルガンがランプに導入して、実に価値の高いものとなったあのすばらしい特徴と同じですな。ちなみに東洋からこんなプレゼントを受け取る方に申し上げておくと、これとか、これに似た物質はだんだん変化してきて、表面がだんだんどんより濁った外見になってきます。でもきれいな布か、絹のハンカチで表面をこすってやって、表面にこびりついたものというか、かたまったものを磨いてやると、すぐにもとの美しい状態に戻ります。これで美しい色彩が戻ってきます。ロウソクの一本をそうやって磨いてやりました。磨いたのと、磨いていないのとでちがいがわかるでしょう。磨いてないほうも、同じようにすればすぐに戻ります。あと見てほしいのが、この日本からの型どりロウソクは、世界のこの近辺の型どりロウソクよりも、きつい感じの円錐になってるのも見てください。

 さて前回お目にかかったときには、炭酸ガス(二酸化炭素)の話をずいぶんしました。石灰水のテストによって、ロウソクやランプのてっぺんからの蒸気をびんに集めて、この石灰水の溶液(その中身はもう説明しましたし、みなさん家でもつくれますね)でテストすると、あの白い不透明なものが出てきて、それは実は貝殻やサンゴや、地中の岩や鉱物の多くと同じ、カルシウムの入った物質なんでしたね。でも、まだロウソクから出てくるような炭酸ガスの科学的な性質を、完全かつはっきりとはお話していませんでした。だからそこに戻らなきゃいけませんね。ロウソクから出てくる産物とその性質は見てきました。水をその要素にまでたどったから、こんどはロウソクから出てくる炭酸ガスの要素がなんなのかを見極めなきゃなりません。これはいくつか実験をすればわかります。
  覚えてらっしゃるでしょうか、ロウソクがあまりよく燃えないときには、煙が出てきます。でもよく燃えているときには煙は出てきません。そしてロウソクの明るさはこの煙のおかげで、煙が点火するんだということも知ってますね。これを証明する実験をしましょう。煙がロウソクの炎の中にとどまって、点火している限り、美しい光を放って黒い粒子の形では絶対出てきません。まず、派手に燃える燃料に火をつけますね。こいつがねらい通りです――スポンジにちょっとテレピン油をしみこませてます。煙が上がっているのが見えますね。そして大量に空中に漂い出てます。そしてロウソクから出てくる炭酸ガスは、こういう煙からできてくることを忘れないでください。それをはっきりさせるために、スポンジ上で燃えているテレピン油を、酸素のたっぷり入ったフラスコに入れてみましょう。空気の中でものを燃やす部分です。すると、ほら、煙が全部燃え切ってますね。これが実験の最初の部分です。
  さあ、次はどうしましょうか? 空気中では、テレピン油の炎から飛び立っていた炭素は、この酸素の中では完全に燃えています。そしてそれが、このおおざっぱで急ごしらえの実験によって、ロウソクの燃焼とまったく同じ結論と結果を与えてくれることがわかりますよ。なぜ実験をこういう形でやるかと言うと、こういう実証の段階をとても簡単にしておいて、きちんと注意していれば一瞬たりともみなさんが理由付けの筋道を見失わないようにしたいという、ひたすらそれだけです。酸素の中、あるいは空気中で燃えた炭素すべては炭酸ガスになって出てきます。一方、そうやって燃えなかった粒子は、炭酸ガスの中の第二の物質――つまり炭素――を見せてくれます。これは空気がたくさんあるときには炎をとても明るくしてくれる物質ですが、燃える酸素が十分にないときには、余った分が放出されるんですね。

 さらに、炭素と酸素が結びついて炭酸ガスをつくるというお話しを、もっときちんと説明しなきゃいけませんね。いまはみなさんもこれをもっとよく理解できるようになっているでしょう。わたしもそれを示すのに、実験を3、4つ用意しました。こっちのびんは酸素でいっぱいです。こっちには炭素。炉に入れて、真っ赤になるまで熱しますよ。びんは乾燥させておいて、多少不十分ではありますが、なんとか結果を見せてあげましょう。そのほうが、実験結果が明るくなるんです。こいつ(ふつうの木炭を赤く燃やしたもの)が炭素だということは、空中での燃え方からもわかります [と、炉からちょっと木炭を取り出す]。これからこいつを酸素の中で燃やしてみます。ちがいを見てください。遠くの人は、これが炎をあげて燃えているように見えるかもしれませんが、そうじゃないです。炭素の小さなかけらがすべて、火花となって燃えているんです。そしてそうやって燃える中で、炭酸ガスを作っているんです。これからやるいくつかの実験は、これからだんだんとはっきりさせていきたい点を、ずばり指摘するものにしたいんです――つまり、炭素がこういう形で燃えるのであって、炎となって燃えるのではないってことです。

  炭素の粒子をいっぱい持ってきて燃やすかわりに、炭素のでっかい固まりをもってきましょう。このほうが、形も大きさも見えますし、なにが起きるかもはっきりわかります。これが酸素のびん、そしてこっちは木炭のかけらで、木ぎれをゆわえつけてあります。こいつに火をつけて、燃焼を開始しようってわけです。こうしないと手がかかりますんで。木炭が燃えてますが、炎はあがってません(ちょっとはあがっているかもしれませんが、きわめて小さなものです。これがなぜできるかはわかってまして、炭素の表面近くで、ちょっと一酸化炭素ができるせいなんです)。こうしてごらんのとおり燃え続けますね、そしてこの炭素というか炭(同じことです)と酸素を結合させて、ゆっくり炭酸ガスをつくっていきます。木炭をもう一つ用意します。木の皮の部分の木炭で、こいつは燃えながら飛び散る――爆発する――性質を持っています。熱の働きで、炭素の固まりは飛び散るかけらになります。でもそのかけらのすべてが、この全体の固まりと同じように、この独特の形で燃えます――石炭みたいに燃えて、炎はあがりません。炭素が火花として燃えるということを示すのに、これ以上の実験は知りませんね。

 というわけで、ここにその要素からつくった炭酸ガスがあります。一気に作ったもので、石灰水で試してみれば、前に説明したのと同じ物質ができているのがわかりますね。重さで見て 6 の炭素(ロウソクの炎からきても、粉にした木炭からきても同じです)と、重さで 16 の酸素をくっつけると、重さ 22 の炭酸ガスができます。そして前回見たように、重さ 22 の炭酸ガスは重さ 28 の石灰とくっついて、炭酸カルシウムをつくります。カキの殻を調べて構成部分の重さを量ってみると、炭素 6、酸素 16 と石灰 28 が組合わさってカキの殻 50 ができていることになります。でも、ここでそういう細かい話をして困らせたりはしないことにしましょう。ここで扱えるのは、物事のだいたいの考え方だけですからね。さあ、炭素はびんの中でとてもきれいに溶けていってますね [と酸素のびんの中で静かに燃えている木炭のかたまりを指さす]。この炭素は、まわりの空気に溶けていってるんだ、といってもいいかもしれません。そしてこれが完全に純粋な炭なら――すぐにつくれますが――燃えかすなどは一切残りません。炭素のかたまりを完全にきれいにして純化すると、灰は残らないんです。炭素は固体のみっしりした物体として燃えますし、熱だけではその固体ぶりを変えたりできません。でも、ふつうの状況では絶対に固体や液体にならないような蒸気になって消えていくんです。さらにもっとおもしろいのは、酸素に炭素が化合しても、その体積はまったく変わらないということです。最初あったのと同じ体積のままで、単に酸素が炭酸ガスになっただけです。

 炭酸ガスの一般的な性質にじゅうぶんなじんでもらうために、もう一つ実験をしておかなければいけません。炭酸ガスは、炭素と酸素でできた化合物です。ですから、炭酸ガスという物質は分離してやることだってできるはずです。できるんです。水と同じように、炭酸ガスも分離できます――つまり二つの構成物質を引き離してやるわけですな。いちばん簡単で手っ取り早いのは、炭酸ガスから酸素を引きつけて炭素だけを残せるような物質を作用させてやることです。カリウムを水や氷に乗っけたら、それが水素から酸素を引き離せたのを見ましたよね。では、この炭酸ガスで同じようなことができないもんでしょうか。
   炭酸ガスは、ご承知のようにとても重い気体です。これが炭酸ガスだというのを、石灰水で試すのはやりません。それだと炭酸ガスがなくなって、後々の実験にさしさわりますから。でも、気体の重さと、これで炎が消えるという力で、ここでの狙いには十分でしょう。炎をこの気体にいれてみて、消えるかどうか見てみましょう。ごらんのとおり、火が消えました。この気体なら、ひょっとして燐の火も消せるかもしれません。燐は、ごぞんじのようにかなり強力に燃えます。ここに、高温に熱した燐があります。こいつをこの気体に入れると、火が消えたのがわかりますね。でも空中に戻してやりますと、ひとりでに火がつきます。燃焼が再開されるからです。
  ではカリウムのかけらを用意しましょう。この物質は常温でも炭酸ガスと反応するんですけれど、われわれの目的には向いていません。すぐに保護する皮膜で覆われちゃうからです。でも空中での発火点まで温度をあげてやると、というのは当然やっていいことですが、そして燐でのと同じようにしてやると、炭酸ガスの中でも燃えるのが見られますよ。そして燃えるというのは、酸素を奪うことで燃えているわけで、だから後に残ったものが見えます。では、このカリウムを炭酸ガスの中で燃やして、炭酸ガスの中の酸素の存在を証明してあげましょう。 [カリウムを熱する事前処理中に、カリウムが爆発。] ときどきこういう燃やすと爆発したりとかなんとか、そういう変なカリウムに出くわします。別のかけらを使いましょう。さあこうして熱してやって、びんの中に入れると、ほーら、炭酸ガスの中で燃えるのがわかりますね――空中でほどはよく燃えません。炭酸ガスの酸素は他のものと結合した形になっているからです。でも、燃えているのは事実ですし、酸素を奪っているのは確かです。このカリウムを水にいれると、灰汁(酸化カリウム)の他に(これについてはここでは気にしなくていいですよ)、かなりの炭素ができているのがわかります。ここではかなり乱暴に実験してますけれど、もしこの実験を慎重にやって、5分ですませるんじゃなくて丸一日かけたら、スプーンとか、あるいはカリウムを燃やした場所にかなりの炭が残ることになって、結果は疑問の余地がなくなることは断言しておきます。というわけで、ここにあるのが炭酸ガスから得られた炭素です。よくある黒い物質です。これで、炭酸ガスが炭素と酸素からできているという完全な証明ができたことになります。そして一方で、ふつうの状況で炭素が燃えたら、いつでも必ず炭酸ガスができる、ということはお話ししておきましょう。

 たとえばこんな木ぎれをとって、石灰水入りのびんに入れたとしましょう。石灰水と木ぎれと空気をいっしょにして、いくら振ってやっても、石灰水は今見ているのと同じように透明なままです。でもそのびんの空気の中で、木ぎれを燃やしてやったとしましょう。そしたらもちろん、水ができるのは知ってますね。では、炭酸ガスはできるでしょうか? [実験が行われる。] ほーらごらんのとおり。つまりここで見えているのは石灰の炭酸化合物で、それは炭酸ガスからできたもので、その炭酸ガスは炭素をもとにできて、その炭素は木や、ロウソクや、その他いろんなものからきてるはずだってことです。実際に、木の中の炭素が見られるとてもきれいな実験を、みなさんも自分でしょっちゅうやってるはずです。木ぎれをとって、ちょっと燃やしてから吹き消すと、炭素が残ります。同じことをしても炭素が見えるように残らない物質もあります。ロウソクだと、炭は見えませんが、でも炭素は含まれています。
  こちらにはまた、石炭ガスの入ったびんがあります。こいつは(燃やすと)炭酸ガスをたっぷり作り出します。炭素は見えませんが、じきにそれがあることを示しましょう。火をつけると、シリンダーの中に石炭ガスが残っていれば、燃え続けます。炭素は見えませんが、炎が見えますね。そしてこの炎が明るいということから、炎の中に炭素があることが推測できるわけです。でも、別のやりかたで示してみましょう。同じ気体が別の容器に用意してあります。こいつは、気体の水素は燃やすけれど、炭素は燃やさない物質と混ぜてあるんです。こいつに燃えるロウソクで火をつけます。と、水素は消費されても炭素は燃えないのがわかります。この炭素は、濃い黒い煙になって後に残っていますね。
  いまの実験三、四つで、炭素があったら見分けられるようになってくれて、気体やその他の物質が空中で完全に燃えたときにはどんなものができるかを理解してくれると思います。

 さて炭素の話題を離れる前に、もうちょっと実験をしてやって、普通の燃焼に関して炭素が持つすばらしい条件についてふれておきましょう。炭素は、燃えるときには固体として燃えるということをお見せしましたが、でも燃えたあとはもう固体じゃなくなるということも、ごらんになりましたね。こんなふうなふるまいをする燃料はほとんどありません。というか、これができるのはあの燃料の大いなる源である、石炭とか木炭とか木など炭素質系の物質(carbonaceous series) だけなんですね。こういう形で燃える元素的な物質は、炭素以外にはわたしは知りません。そしてもし炭素がこういうふうでなければ、わたしたちはどうなっちゃうでしょうか? たとえばすべての燃料が鉄みたいで、燃えると固体ができたら? そうしたらこのかまどでのような燃焼は起こりません。
  ここにあるのは、炭素並に、いやむしろ炭素以上に実によく燃える燃料です。よく燃えすぎて、空中にさらしただけで勝手に燃え出します。こんなふうに [と自然発火性鉛(lead pyrophorus)のつまったガラス管を割る]。この物質は鉛です。すばらしく燃えやすいのがわかったでしょう。細かく刻まれていて、暖炉の石炭みたいです。空気がこいつの表面にも中にも入り込めますので、燃えます。でも、こうやって固まりで転がっているときには、なぜさっきみたいに燃えないんでしょうか。単に、空気がたどりつけないからというだけです。すごい熱をつくれるし、その熱をかまどやボイラーの下で使いたいところですが、燃えた結果できる燃えかす部分が、燃えずに下に残っている部分から離れられないんです。だから下にある部分は大気と接触できなくて、だから燃えてしまわないんですね。炭素とはえらいちがいでしょう! 炭素は鉛と同じように燃えますし、かまどや、その他燃やせばどこでも強い火をつくります。でも、燃焼でできた物体は逃げ去って、残った炭素はきれいなままです。炭素が酸素の中で分解されつづけて、灰も残さなかったのはお見せしましたよね。ところが [と鉛の山を指さして] 燃料よりは灰が多いんです。こいつは、結合した酸素の分だけ重くなっています。
  というわけで、炭素と鉛や鉄とのちがいがわかるでしょう――鉄を選んでも、この燃料を使った結果として、光も熱も見事に出してくれるんです。もし炭素が燃えたとき、その産物が固体になっていたら、この部屋は不透明な物質でいっぱいになったはずです。鉛の場合みたいにね。でも炭素が燃えると、すべてが大気中にとんでいきます。燃焼前には、固定された、ほとんど変化させようのない状態ですが、燃焼後には気体になって、この気体は固体や液体にするのは実にむずかしいのです(が、やろうと思えばできますけど)。

 さてここで、わたしたちの研究対象のとてもおもしろい部分にみなさんをお連れしなければ――ロウソクの燃焼と、わたしたちの体内で起こるような生きている燃焼との間の関係についてです。わたしたち一人残らずの中では、生き物としてロウソクのものにとってもよく似た燃焼プロセスがありまして、それをみなさんにはっきりわかるようにしなきゃいけません。というのも、人の一生とロウソクとの関係というのは、単に詩的な意味でだけ正しいわけじゃなくて、ほかの意味でもなりたちます。だからあとをついてきていただければ、それをはっきりさせられると思いますよ。
  この関係をとてもわかりやすくするため、ちょっとした装置を考案しまして、これをすぐにみなさんの前で組み立てていきましょう。こいつは板で、溝が切り込んであります。この溝の上からふたができるようになっていて、するとこの溝は通路になって、それが両端でガラス管につながっていて、全体として自由に通れる通路になってます。さあ、火さし棒かロウソク(もう「ロウソク」ということばをいい加減に使ってもだいじょうぶですね。なにを言いたいのかみんなわかってますから)を用意して、それをガラス管の一つの中に入れます。ごらんの通り、よく燃え続けますね。ごらんのように、炎に供給される空気はガラス管のてっぺんからきて、水平の管(板の溝にふたをした部分)を通って、ロウソクがおかれたもう一つのガラス管をあがっていくわけですね。もし空気が入ってくる穴をふさぐと、燃焼もとまります。見えましたね。
  でも、こんなのはどうでしょうか。まえの実験では、ロウソクから別のロウソクに空気を送ってみました。別のロウソクから出てくる空気をとって、いろいろややこしい手を使ってこのパイプに送り込んだら、こっちのロウソクも消えるでしょう。でも、わたしの息をいれても、このロウソクは消えちゃうんですよ。どう思います? 息といっても、ロウソクを吹き消すってことじゃぜんぜんなくて、単に息そのものの性質で、ロウソクはその中では燃えられないってことです。では、穴の上に口をもってきて、炎を吹き消さずに、わたしの口からくるもの以外は管に空気が入らないようにします。結果はごらんの通り。わたし、ロウソクを吹き消したりしてませんね。吐いた息を穴の中に送り込んだだけです。でも結果は、あかりは酸素が足りないと言う理由だけで、消えてしまったわけです。なんかしらのもの――要するにわたしの肺――が空中の酸素をとってしまって、だからロウソクの燃焼に使える分が残っていなかったわけです。わたしが装置のこっちがわに入れた悪い空気が、ロウソクにたどりつくまでの時間を見ておくと、すごくおもしろいと思うんですわ。ロウソクは、最初は燃え続けますけれど、悪い空気がそこについたとたんに消えます。
  さてこんどは、別の実験をお見せしましょう。これまたわたしたちの考え方の大事な一部だからです。こっちには、新鮮な空気の入ったびんがあります。ロウソクやガス灯が燃えている様子からもわかりますね。しばらくこいつにふたをして、ガラス管を使ってその上に口を持っていって、そこの空気を吸ってみましょう。こうしてごらんのように水の上においてやると、この空気をこうして吸い上げて(ただしコルクがじゅうぶんにしっかりはまっていればですが)、自分の肺に入れて、またびんにもどしてやることができます。そしたらそれを調べて、どんな結果になったかを見ましょう。見ててくださいよ、まず空気を吸い上げて、それから戻してやります。水があがったり下がったりするからわかりますね。さて、この空気にロウソクを入れてやると、どんな状態になっているかわかります。火が消えちゃいましたね。一呼吸しただけで、この空気は完全に汚れちゃったわけですから、こいつをもう一回呼吸しても無駄なわけです。これでみなさん、貧乏な階級の人たちの家の配置が、適切でないと言われる根拠がわかりますね。そこでは空気が何度も何度も繰り返し呼吸されていて、だからきちんと喚起をして、空気を供給してやらないといい結果にならないんです。一回呼吸するだけで空気がどんなによごれるか見ましたね。だから新鮮な空気がどんなにわたしたちにだいじか、よーくわかるでしょう。

 こいつをもうちょっと追求しましょう。石灰水でどうなるか見てやります。ここにちょっと石灰水の入ったフラスコがあります。そしてここについたガラス管の配置で、中の空気にアクセスできるようになっていて、吐いた息や、吐かれていない息の影響を見極められるんです。もちろん、(Aから)息をすいこんでもいいし、そうするとわたしの肺にくる前の空気が石灰水を通ります。あるいは肺からの空気を無理にガラス管 (B) に送り込んで、こいつは底の石灰水を通るから、それがどんな影響を与えるか見てやれるわけです。ごらんのように、外の空気をどんなに長いこと通して、そこから肺に入れてやっても、石灰水には何の影響も出ません――つまり石灰水は濁りません。でも肺から出てきた空気を石灰水に何度か続けて通すと、石灰水は実に真っ白なミルク状になっちゃいましたね。吐いた息がどんな影響を与えたかわかるでしょう。そしてこれで、呼吸によってわたしたちが汚した大気というのは、炭酸ガスのせいで汚れたんだというのがわかります。こうして石灰水にふれたときの様子からそれがわかるんです。

 こちらにびんが二つあります。片っぽには石灰水が入っていて、もう片方にはふつうの水が入っています。そして管がそれぞれにびんを通るような形でつながっています。とても雑につくった装置ですけれど、それでも十分に使い物になります。このびんで、こっちで息を吸ってこっちで息を吐くと、管のとりまわしで、空気は逆行しないようになってます。入ってくる空気はわたしの口や肺に行って、出ていくときには石灰水を通るので、こうやって呼吸を続けて、なかなか高度な実験をしてよい結果が得られます。 きれいな空気は、石灰水になんの変化も起こさないのがわかるでしょう。もう一方では、石灰水にはわたしの吐いた息しか通りません。二つのちがいがわかるでしょう。

 もうちょい先までいってみましょうか。われわれが日夜を問わず、なしではやっていけない、このいろんな過程というののはどういうものなんでしょうか。万物の作者たる方が、われわれの意志とはまったく関係なく続くように手配してくださった過程です。もし呼吸を止めてみたら、しばらくはできますが、そのまま続けたら死んじゃいます。眠っているときでも、呼吸する器官やそれと関連する部分は相変わらず動き続けます。空気を肺とを接触させるという呼吸のプロセスは、必要不可欠だからです。なるべく手短に、この過程がなんなのかをお話ししなきゃいけませんね。わたしたちは食べ物を消費します。食べ物はわたしたちの中の、いろいろ変な入れ物や機関を通って、身体機構のいろんな部分に運ばれていきます。特に消化をする部分です。そしてさらに、そういうふうにして変化した部分は、ひとそろいの血管で肺を通って運ばれますが、同時にわたしたちが吸ったりはいたりしている空気は別の血管で入れたり出したりされていて、空気と食べ物が近づいて、だんだんとほんの薄い膜だけで仕切られているようになるんですね。この過程で、空気は血液に作用できるようになって、ロウソクの場合に見てきたのとまったく同じ結果を生み出すわけです。ロウソクは空気の一部を結合させて、炭酸ガスをつくり、熱を出します。同じく肺の中でもこのおもしろい、すばらしい変化が起こっているんです。入ってくる空気は炭素と結びついて(炭素が一人で独立した状態にあるわけではないですが、ロウソクの場合と同じように、そのときの反応にふさわしいような状態に置かれています)、炭酸ガスをつくってそれが大気中に投げ出されて、したがってこの特有の結果が起きます。だから食べ物は燃料だと思えばいいですかね。さっきの砂糖のかけらをもってきましょう。これで用が足ります。砂糖というのは、炭素と水素、酸素の化合物で、ロウソクに似ています。同じ元素が入っているという意味ではロウソクに似ていますが、その構成比はちがっていて、砂糖の構成は次の表の通りになります:

表 砂糖の構成
炭素72
水素11
酸素88(酸素+水素 99)

 これは実におもしろいことでして、みんな頭に入れておくといいでしょう。というのも、酸素と水素はまさに水ができるのと完全に同じ比率で存在しているんですね。だから砂糖というのは、炭素 72 と水が 99 でできていると言ってもいいくらい。そして呼吸の過程で空中の酸素と組合わさるのは、この炭素です――われわれ自身がロウソクみたいなものになるわけですね――そしてそういう反応がおきて、暖かさが生じて、そしてきわめて美しくて単純なプロセスによって、その他いろんな効果が起きて、システムが維持されているわけです。これをもっと印象的にしてみましょう。ちょいと砂糖を用意して、と。いや実験をもっとはやくするために、シロップを使いましょう。これは3/4が砂糖で、それにちょっと水を足したものです。ここに濃硫酸をちょっと入れてやると、こいつが水を奪って、炭素を黒い固まりにして残すんです。 [講師、二つを混ぜ合わせる。] ごらんのとおり、炭素が出てきてますね。そしてまもなく炭の固まりができあがりますよ。すべて砂糖からでてきたものです。砂糖というのは、ご存じのとおり食べ物ですが、そこからこうやってまちがいなく炭素の固まりが出てきてます。まったく予想外です。そして砂糖の中の炭素を酸化するようにすれば、ずっとびっくりする結果が出てきます。はい、砂糖です。そしてこっちには酸化剤です――ただの空気より強力な酸化剤です。そしてこの燃料を、見かけ上は呼吸とちがうやりかたで酸化してみましょう。でも、中身は呼吸とまったく同じなんですよ。体が酸素をこの炭素に供給して、それで炭素が燃えるわけです。こいつをすぐに反応するようにすると、こうして燃えます。わたしの肺で起きているのと同じです――酸素を別のところ、つまり空気中から取り込んでいるわけです。それがここでは、ずっと高速に起きてるんです。

 この炭素のおもしろい働きがどれほどのものか、お話ししたら驚きますよ。ロウソク一本で、4時間、5、6、7時間でも燃えるでしょう。すると、一日で炭酸ガスになって空気中に出ていく炭素がどれほどあることか! 呼吸するわたしたちから、どれほど炭素が出ていくことか! これほどの燃焼や呼吸があると、すさまじい炭素が変換されているはずです! 人一人は、24時間で炭素200グラムも炭酸ガスに変換するんです。乳牛は2キロ、馬は2.2キロ。ただの呼吸だけでこれです。つまり馬は24時間で、呼吸器官の中で炭または炭素を2.2キロ燃やして、その期間の自然な体温を保つわけです。温血動物はすべて、このようにして体温を保つんです。炭を変換することでね。その炭も、別に炭のまま独立した状態であるわけじゃなくて、何かと組合わさった状態になってるんですが。そしてここから考えると、大気中で行われている変換は想像を絶するものになります。500万ポンド、あるいは548トンの炭酸ガスが、ロンドンの呼吸だけで毎日生産されているわけです。そしてこれはみんなどこへ行くんでしょうか? 空中にです。もし炭素が、お見せした鉛や、鉄みたいに、燃えたときに固体を残したらどうなるでしょうか。燃焼は続きません。炭素が燃えると、それは気体になって大気に放たれます。その大気はすばらしい乗り物で、炭酸ガスを他のところに運んでいってくれる、すごい運び手なんですね。でもそしたらどうなるんでしょうか。すばらしいことがわかってまして、呼吸で起きた変化は、われわれにはすごく有害ですが(だってわたしたちは、同じ空気を二回以上は呼吸できませんから)、それはまさに地表に生える植物や野菜にとっては、まさに命の源になっているんです。地表以外の同じところでもそうで、水の中でもそうなんです。魚やなんかの動物たちは同じ原理で呼吸しているんですね、ただし大気と接触して呼吸してるわけではないにしても。

 ここにもってきたような魚 [と金魚鉢を指さす] は、空気から水にとけた酸素を呼吸します。そして炭酸(二酸化炭素)を作って、それがめぐりめぐって、動物の王国と植物の王国をお互いに依存させるというすばらしい仕事をするわけです。そして地表面に生えるあらゆる植物、たとえばここに見本として持ってきたようなヤツですが、これは炭素を吸収します。この葉っぱは、大気中の炭素を吸い込みます。その炭素は、われわれが炭酸(二酸化炭素)として大気に与えたものです。植物はそうやって育って栄えます。こいつらにわれわれみたいな純粋な空気をあげても、生きていけません。その他の物質といっしょに炭素をあげると、喜んで生きていきます。この木材は炭素をすべて大気からもらってきます。木や植物はすべてそうです。大気は、これまで見てきたように、われわれにとって有害で、同時にかれらにとっては有益なものを運んでくれるわけです。一方にとっての病気は、相手には健康をもたらすものなんです。したがってわたしたちは、単に仲間の動物たちに依存しているというだけでなく、仲間の存在物すべてに依存しているわけでして、自然はすべてお互いにいろんな法則で結びあわされて、その一部が別の部分に貢献するようになっているわけです。

 さて、お話を終える前に、もう一点ちょっと言っておかなくてはならないことがあります――こうした操作のすべてに関わる点で、それがわれわれに関わる物体に集約されて関連しているというのは、実におもしろく美しいものです――酸素、水素、炭素が、いろいろちがった形で存在する、ということです。ついさっき、鉛の粉末を燃やしてごらんにいれましたね。あのとき、燃料は空気にさらしただけで、反応しました原注6-1。びんから出してもいないのに――空気がしのびこんだ瞬間、反応が始まりましたよね。さて、あれがすべての反応を司る化学的な親和性の一例です。わたしたちが呼吸すると、同じ働きがわたしたちの中で起きています。ロウソクに火をともすと、別々の部分がそれぞれ引き合っているわけです。ここではそれが、鉛の中で起きています。化学的親和力の見事な例です。もし燃焼の産物が表面から取り除かれたら、鉛は火がついて、そのまま端まで燃えるでしょう。でもここで、炭素と鉛のちがいがあったのを思い出してください――鉛は空気に触れさえすればすぐに反応を起こしますが、炭素は何日も、何週も、何ヶ月も、何年もそのままです。ヘラクレイトスの書いた原稿は、炭素性のインキで書かれていますが、1800 年以上もそのままの状態ですし、大気にはさまざまな状況で触れていたのに、なにも変わっていません。さて炭素と鉛がちがっているのはどういう点なのでしょうか。燃料の目的を果たすような物質は、反応を待つということです。鉛とか、ほかにいろいろお見せできるんですが、そういうものみたいに、勝手に燃え出したりしないんですね。反応するのをじっと待ちます。
  こうやって待ってくれるというのは、おもしろいしすばらしいことです。ロウソクは、鉛や鉄(鉄も細かく刻むと、鉛とまったく同じようにふるまいます)みたいにすぐに反応をはじめたりしません。何年も、幾多の時代を経て、なにも変わらずに待ち続けます。こちらには炭素ガスがあります。ジェット管がガスを吹き出してますが、でもほら、勝手に火がついたりはしません――空中に出てくるけれど、燃えるには、十分に熱が加わらないとダメです。十分に熱くしてやれば、火がつきます。火を吹き消したら、その後で出てくるガスは、もう一回火をつけてもらうのを待ちます。
  いろんな物質の待ち方もおもしろいですね。あるものは、温度がちょっと上がるまでしか待たないし、あるものは、かなり温度を上げてやるまで待ちます。こちらには、粉火薬と、綿火薬がちょっとありますが、こういうものですら、燃える条件がちがっているんです。粉の火薬は炭素とその他の物質でできていて、とても燃えやすくなっています。そして綿火薬(ニトロセルロース)もまた燃えやすいものです。どっちも待っていますが、反応をはじめる温度や条件はちがっています。熱した針金をあててやって、どっちが先に燃え出すか見てみましょう。綿火薬は爆発しましたが、でも同じ針金のいちばん熱い部分でも、粉火薬は反応しません。物質がこうやって燃えるときの温度差が、実にきれいに示されていますね!
  片方では、物質は熱で活性化されるまではずっと待っています。でも別のときには、まるで待ちません。呼吸の場合と同じです。肺の中では、空気は入ってきたとたんに炭素と結合します。人間が凍死寸前の耐えられる最低の温度でも、すぐに反応を起こして、呼吸の炭酸ガスを生じます。おかげでなにもかもうまくおさまって、きちんと続くわけです。これで、呼吸と燃焼のアナロジーはますますきれいで驚異的に見えてくることでしょう。

 さて、いままでの講義の終わりにあたって申し上げられることといえば(というのも、遅かれ早かれ終わりはやってくるものなのです)こんな希望を表明することだけです。あなたたちも、自分の世代において、ロウソクに比べられる存在とならんことを。あなたたちが、ロウソクのように、まわりの人々にとっての光明となって輝きますように。そして、あなたたちが行動のすべてにおいて、仲間の人類に対する責務を果たすにあたり、その行いを名誉ある役立つものにすることで、小さなロウソクの美しさに恥じない存在となりますように。

註:

原注6-1:
 自然発火性鉛(Lead pyrophorus)は、乾燥した酒石酸鉛をガラス管(一方の端を閉じて、もう一方は細長く引き延ばしておく)に入れて蒸気が出なくなるまで熱する。そうなったら、管の開口部をバーナーで封印する。その管を割って中身を空中に振り出すと、赤い閃光をあげて燃える。


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