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Robert Todd Carroll

SkepDic 日本語版
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タキオンとタキオニクス
tachyons and takionics

タキオンとは理論上の粒子あるいは波のことで、その速度は光速を超えるとされる。タキオンは、物体が負の質量を持ち、時間が逆行するといった、理論上の世界の存在である。SFファンタジー番組のスタートレック・ボイジャーでは、“サブスペース”を探るのにもっぱらタキオンが使われている。現在まで、タキオンが存在するという経験的証拠が発見されたことはない。NASAの科学者トム・ブリッグマンは“もし存在するとしたら、タキオンは現在我々が理解している物理学の下では、おそろしく実用化困難な代物だろう”と語っている。理論上の存在であり、しかも実用化困難なもので、その価値は未知数であるにもかかわらず、タキオンは、ビース玉やベルト、靴の中敷きから汗止めバンド、パワー枕、マッサージオイル、はてはタキオンウォーターのバイアルに至るまで揃ったニューエイジ商品のラインアップで主要原料となっている。

ニューエイジのうち意欲的な連中は、タキオンが存在することはすでに知っているし、その力も利用しているのだ、と主張している。たとえばバイオテック・インダストリーズ・オブ・カーボンデール・コロラドの連中は、“タキオン場(The Tachyon Field)は生命体すべてが必要とするエネルギーを、生命の調和が得られるまで補給して、再び必要となるまで安らぎを与えてくれます。疲れがたまってタキオンが必要となったら、生命の調和を回復するようにタキオンが流れ込むのです。”1 だがしかし、自然界がタキオンの調和状態を保つことができない場合、あなたは必要とするタキオンパワーを、すべてバイオテックのごたいそうなタキオン製品から摂らねばならないのである。(タキオンのスペルが違うのは、‘tachyon’という語が商標化できないからである。‘takion’と‘takionic’という語は商標化できるので、こうして自分たちの製品を差別化しているのだ。)

バイオテックの連中は信じられないような主張をいくつかおこなっている。たとえば、

タキオン場からエネルギーを得て動作するモーターがすでに作られています。これらは目に見える動力源にはつながっていないのですが、動作時間が長くなるにつれて回転速度が上がるといった、奇妙なふるまいをします。2

こんなモーターが、いったいどこにあるのだろうか?このモーターを見たことがある者は誰もいないが、ともかく存在するのだと信じるほかないのだろう。おそらくこのモーターは、キャトル・ミューティレーション生殖実験のために地球へやってきたUFOを運んでくる宇宙船の中にでもあるのだろう。

バイオテックはこんなことも主張している。

タキオニック製品は原子の偏向的分極性によって身体に自然に備わったタキオン場から必要に応じてエネルギーを吸収する能力を高めてくれます。運動選手たちはタキオニック製品によってより速く、より長い間能力が発揮できるようになり、しかも回復に必要な時間も短くなるということをすでに発見しています。タキオニック製品がタキオン場からエネルギーを導き入れてくれることは、スポーツ競技の世界が実証しています。

では“タキオン場”とはいったい何なのだろうか?

タキオン場はきわめて高密度です。この密度は負の状態にあるため測定不可能で、私たちが住んでいる正の密度とは鏡写しになっているのです。負の密度の理論は観察可能な現象によって裏付けが得られています:この宇宙が永遠に膨張するのは、私たちには見えないなんらかの膨張するものの圧力のせいなのです。タキオン場によってこの宇宙に生じた圧力は、目に見えない高密度の宇宙、つまりはタキオン場が存在することを示しています。3

タキオン場は高密度かもしれないが、こんな代物をでっち上げたニューエイジ物理学者の密度と肩を並べるようになるには、きっと長い時間がかかるだろう。彼らの主張には、現実に対する根本的な理解など、何か欠けているものがあるように思われる。私たちは、ある種のエネルギーがある、これを信じろ、と迫られているのだ。だがこのエネルギーは“現在ある機器では証明できない”し、それに、このエネルギーを利用すれば、どんなことでも説明できてしまうのだ。

タキオン理論は全体論的なものです。というのも、この理論は実際には目に見えない2つの世界、つまり光速を限界とする世界と、目に見えない光速を超える世界があるという概念を受容するものだからです。タキオン理論は遍在という高度に形而上学的な概念さえも実証しています。神は遍在するのです(つまりあらゆるところに同時に存在しているのです)。遍在する存在は、光速を超えることではじめて存在可能なのです。光速以下では移動するのに時間がかかってしまうからです。したがって、遍在は時空が統一されたタキオン世界の性質でしかありえないのです。4

さあ、これでニューエイジ物理学の道具立てが、すべて揃ったわけだ:タキオンエネルギー、気、陰陽、神、鏡写しの宇宙、それに汎神論。問題はその形而上学のがたくた同様、タキオンエネルギーなどを信ずる理由など、どこにもないということだ。いったん思索がはじまると、こうした全能なる遍在は、いったいそれが何を説明しているのか、ということにさえ限度がない。たとえばこの文章の作者は、“神経系と脳はきわめて洗練されたアンテナでしかなく、タキオン場の資源を吸収・処理・変換しているにすぎないのです”、そして“癒しの治療師たちは常人以上の強い治癒能力を得るためにタキオン場の資源にアクセスする方法を学んだのです”と主張している。

上に挙げた主張は、すべてこの男が販売しているタキオニック製品のラインナップを紹介するために書かれたものだ。ニューエイジエネルギーは、健康と幸福を与えてくれると称する製品が想像力と同じぐらい限りなく、それこそニューエイジエネルギーと同じぐらい無限に存在する代替療法の世界では、とりわけ売れ筋商品なのだ。10個118ドル95セントで売られているタキオンのビーズ玉というのがあるが、これは“有益なタキオンエネルギーに同調する”アンテナとなるそうだ。268ドル95セントのタキオンベルトというのもあり、これは代謝を促進して体力を高めてくれるらしい。タキオンウォーターは小さなバイアルに入れて1本27ドル95セントで売られているが、これは“ピュアでクラスターフリー”だという。

カリフォルニア州サンタローザにあるアドバンスト・タキオン・テクノロジーズ(ATT)という別のニューエイジビジネスでは、これよりもっと幅広い製品ラインナップを揃えていて、その中には愛車用や愛犬用のものまである。ATTには、あなたの愛の生活を高めるという製品(豹のジュースとかいうもの)と、運動能力を高めるという製品を揃えているが、この2つは互いに相反するものではないらしい。ATTには痛みを和らげて脳の働きを促すという製品もある。ATTには、瞑想をタキオンで増進するチャクラ整調キットもある。個人用タキオン繭なら、396ドルで買うことができる。あるいは、タキオン化シルク瞑想ラップを296ドルで買って、精神と性生活を強化することもできる。説明書には、“性交前には愛する人とともに、このタキオン化シルク瞑想ラップをお使いください”とある。


科学者でない人たちにとって、およそ現代物理学ほど恐ろしいものはない。たとえ教育水準の高い人であっても、事象の地平線における実体や予測されている存在に関する奇妙きてれつな主張はいうに及ばず、素粒子の世界での実体や予測されている存在についての最も基本的な主張すら、理解するのは困難である。“素粒子”とか“事象の地平線”といった概念を聞いただけでひるんでしまう。教育水準の低い人たちの多くが科学をバカにして、世界の起源とそのありさまについて原理主義的な宗教解釈に慰めを見いだすのは、おそらく現代物理学が難解きわまりなく、理解へ到達し難いものだからだろう。現代物理学概念の超越的とも思われるありさまに対する反応としてはもうひとつ、インドや中国といった(西洋から見た)異文化で何千年ものあいだポピュラーだった、古代の形而上学的教義という観点で翻案してみることだった。こうした古代形而上学と現代物理学の“調和”という概念は、科学は受け容れるが自分たちがその中で育ったキリスト教派を拒否する、それでもなお霊的な欲求は抱いている、そんな人たちには魅力的だったのだ。このような古代東洋と現代西洋の“調和”という概念には、宗教を信じるために科学を否定するバカとして扱われなくてもすむという利点がある。こうした点で、“調和論”は“科学的創造論”と同じ性質を共有している:つまり、こうした連中は自分たちのイメージによって、自分たちの目的にかなう科学を再創造しているのである。中世の哲学が神学の僕であったのと同様に、科学が宗教や形而上学の僕となってしまっているのだ。

ニューエイジの理論家たちは、まるで粒子加速器のように物理学の概念を粉々に破砕しており、そこから生まれてくる概念には、あのハイゼンベルグもビックリだ。“ニューエイジ物理学”についてもちょっと話をしてみよう;というのも、彼らが現代物理学の概念に対して行っているのは、自分たちの技術と製品ラインアップに合った形而上学へ置き換えているのにすぎないからだ。ニューエイジたちの言う“エネルギー”の概念を見てみれば、このことは一目瞭然だ。物理学では、エネルギーとはある物理系が“仕事”をするための容量であるという基本認識がある。物理学では、“仕事”とは力と力が働いて移動した距離の積であると定義されている。“エネルギー”とは、潜在的なものであれ顕在的なものであれ、物体を動かす力を示す用語なのである。ニューエイジの心霊主義はエンパワーメントという語をよく用いる。ニューエイジはエネルギーを高めるとか、宇宙エネルギーに接続するとか、エネルギーを操作して幸福で満ち足りた状態にするとか、望みをかなえるとか、誰からも愛されるようにして、生活を意義深くて素晴らしい、永遠のものにする、などと試みている。つまりニューエイジたちは、その意志でなにもかもが思い通りになる、神か至高の存在、あるいは魔術を備えた永遠の存在になりたいのだ。

もちろん、ニューエイジのエネルギーは機械や電気あるいは原子核とも無縁の代物だ。ニューエイジのエネルギーは、むしろのように働くものだ。ニューエイジのエネルギーは既存のいかなる科学機器でも測定できない。ニューエイジのエネルギーにはエルグやジュール、エレクトロンボルト、カロリー、フィートポンドといった単位もない。特殊な能力を持つ特殊な人だけが、つまり“同調”や“整調”、“バランス”、“チャネリング”、その他いろいろとニューエイジのエネルギーを操作できる人だけが、測定できるのだ。どうやってかって?連中はエネルギーを感じるのだ。連中はエネルギーを感じ、波動を感じる。宇宙のひもを通じて同調する。連中は天体の調和へと波動する。波動の中心は銀行口座にあるのだろう。

関連する項目:気(chi)霊気(reiki)手かざし(therapeutic touch)



参考文献

Baadhio, Randy A. Geometrical tachyon and grafted string world sheet  (Berkeley, Calif.: Mathematical Sciences Research Institute, 1991).

Forward, Robert L. Future Magic: How Today's Science Fiction Will Become Tomorrow's Reality  (Avon
Books, 1988).

Herbert, Nick. Faster Than Light: Superluminal Loopholes in Physics (Plume Books, 1988).

Copyright 1998
Robert Todd Carroll
Last Updated 11/23/98
日本語化 04/13/00

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