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Robert Todd Carroll

SkepDic 日本語版
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エイリアン・アブダクション
alien abductions

“...我々人類は偉大な蒐集家である。にもかかわらず、こうした[空飛ぶ円盤に乗ったと主張する]人たちのうち、地球外の道具とか製品とかいったものを持ち帰ったりしたものは誰一人としていない。こうした物的証拠があれば、UFOの謎は一挙に解明できるのだが。”フィリップ・クラス

エイリアンが他所の星からこの地球にやってきて、選ばれた人間を使って生殖の実験をおこなっている、という話は、間違っているが、しかし広く信じられている。この話は信じられないぐらい突拍子もないものだし、おまけに裏づけとなる証拠など何もないのだが、それにもかかわらず、エイリアンがやってきて人間を誘拐していると信じるカルト集団は増えてしまっている。

このカルトの教義によると、エイリアンは1947年にニューメキシコのロズウェルで墜落したということになっている。アメリカ政府はこのエイリアンの乗り物と乗組員を復元して、それ以来エリア51と呼ばれる場所で極秘のうちにエイリアンと接触している。UFOの目撃例が増えているのは、地球上でエイリアンの活動が活発化しているからだ。エイリアンは人間をどんどん誘拐していって、いわゆるミステリー・サークルといったかたちで印を残して、自分たちの存在を誇示している。またエイリアンはキャトル・ミューティレーションにも関与していて、ときにはユーランシャの書のような啓示を選ばれた預言者に与えたりする。エイリアンとUFOへの信仰の裏づけとなっているもののほとんどは、憶測や幻想、うそ、それにいかがわしい証拠や証言を不当に引用したものである。また、UFO信者はエイリアンの活動を隠すために政府やマスメディアが陰謀を巡らしていると確信しており、エイリアンが地球にやって来たことを証明できないのはこのせいだ、と主張している。

宇宙のどこかほかの場所にも生命が存在して、その中にはたいへん知的な生命体もいるだろうというのはおそらく確かだろう。何十億個もの星雲の中に1兆個の星々が存在し、その中には恒星との距離が地球と太陽と同程度で、しかも適度な年齢の惑星が、数百万個はあるだろう。こうした惑星が存在する確率は、数学的にも高いのだ。これらのうちいくつかで生命進化が生じる確率も非常に高い。たしかに、太陽系の外にも惑星が存在するという明白な観測結果が、ごく最近[1996年1月]になるまでなかったというのは事実である。しかし、私たちのいる宇宙のごく一部のみがまったく特殊な方法で生成されたのだ、というのもきわめて疑わしい。もし太陽系だけが特殊なものではないとすれば、惑星や月や、小惑星帯などはその星雲にも存在するはずだし、その星雲の中にある恒星の回りを巡っているはずである。したがって、宇宙には我々の他にも知的生命体が存在する可能性は高い。もっとも、我々と同じ姿形をした者など存在しない可能性もあるが。

だがしかし、忘れてはいけない。最も近い恒星でさえ(太陽を別にすれば)地球からははるか遠くにあって、行って帰ってくるだけでも人間の寿命以上の時間がかかるのだ。私たちの太陽が銀河系を1周するには、およそ200万年かかる。このことから、もし私たちが銀河の中を旅行するとしたらどれだけの年月がかかるか、だいたい想像できるかもしれない。私たちは太陽から500光秒の位置にいる。地球から一番近い恒星は4.3光年の距離にある。4.3光年というと近いように感じるかもしれないが、実際には23兆マイル(37兆km)の彼方にある。仮に時速100万マイルで飛んでいっても2,500年以上かかる計算だ。50年でたどり着こうと思ったら、旅の全行程を時速10億マイルで飛んでいかなければならない。他の惑星に知的生命がいる可能性はたしかにある。だが宇宙のどこであれ、彼らがどこへ向けて信号を発信ようとも、他の惑星にその電波が受信されることは、おそらくないだろう。宇宙の中で知的生命体を探そうとするのは、それがどこにいるのかがわかっていない限り、愚かなことなのだ。また一方、彼らの信号を待ち続けたとしたって、その惑星に生きるどんな生命の寿命も信号が届くより先に尽きてしまうだろう。仮に念願かなって信号を得たとしても、その信号は何百年も何千年も目に発信されたもので、私たちがこれを解読する頃には、信号を送った惑星には誰も住んでいないかもしれないし、そもそも存在しないかもしれないのだ。

したがって、宇宙に知的生命が存在する可能性は高いが、そこの生物を調べるために星系を行き来するとなると、大変な難問が生じるのだ。こうした旅行をしようとすれば、大変な時間がかかるだろう。人々を何百年、何千年も生かしておかねばならなくなる。何百年、何千年も働き続けることができ、しかも深宇宙の真っただ中でも修理できる、そんな機械も必要になる。これらは不可能な要求ではないが、宇宙旅行や銀河旅行がきわめて非現実的だとするには充分だろう。もしこうした困難を排してまで宇宙旅行を可能にさせるものがあるとしたら、それは人の意志だろう。何百年、何千年も眠り続けて、見知らぬ惑星に辿り着いたら目覚めればいいのだ、そう信じている人を見つけるのは、それほど難しくはない。彼らはきっと、情報を収集してめでたく地球へ帰還した暁には、ニューヨークの大通りみたいなところで紙吹雪のパレードで出迎えられる、そんなことを信じているのだろう。

誘拐とレイプ?

本物のエイリアン宇宙旅行は非現実だというのはたしかだが、不可能ではない。おそらく、宇宙をすごい速度で旅することができて、しかも亜光速やそれ以上の速度で飛べる宇宙線を建造するテクノロジーと鉱物資源を持っている、そんな生命体だっているかもしれない。そんなエイリアンがやってきて人間を誘拐してレイプや実験をやっているのだろうか?小さくて髪のない生物に誘拐されたり性的虐待を受けたとする報告は数多く存在する;この生物は白かったり灰色だったり、あるいは緑色をしている;頭は大きくてあごは小さく、大きな目が斜めについていて、耳はごく小さいか、まったくない。こうした主張が数多くあることや、その証言が互いに似ていることは、いったいどうしたら説明できるのだろうか?これらの証言がよく似ていることにたいするもっとも合理的な説明は、こうした主張が同一の映画や物語、あるいはテレビ番組やマンガをもとにしているからだ、というものだ。

エイリアンがやってきて人体実験をやっている、というカルト信仰の導火線となったエイリアン・アブダクションの話は、バーニー・ヒルとベティー・ヒルの逸話から始まったもののようだ。ヒル夫妻は1961年9月19日にエイリアンによって誘拐されたと主張している。バーニーはエイリアンが彼の精子を採取したと主張している。ベティーはエイリアンが彼女のへそに針を刺したと主張している。彼女は人々をエイリアンの着陸地点へ案内したが、エイリアンとその宇宙船を見ることができたのは彼女だけだった。ヒル夫妻はこの話を、誘拐されてから数年が経過した後で催眠術のもとで甦らせた。バーニー・ヒルは、エイリアンがふつうでは考えられないような“サングラスのような目”をしていたと報告している。だがこの12日前、“アウターリミッツ”の番組の中に、ちょうどこのようなエイリアン(コッテムアイヤー)が登場していたのだ。ロバート・シェーファーによると、“我々は現代のUFOによる誘拐事件の基本要素を、1930年代の冒険コミック 25世紀のバック・ロジャースの中に見て取ることができる。”

ヒルの逸話は繰り返し伝えられてきた。このエイリアンとの遭遇のあと、夫妻には記憶を喪失している期間がある。逸話ではたいていそれから催眠術かカウンセリング、あるいは心理療法を受け、それらの中で誘拐されて実験台にされた記憶が甦った、とされている。誘拐話の中には、体内に異物を埋め込まれたというのもあるし、またエイリアンによって身体に傷をつけられたとか印をつけられたとかいったものも多い。これら証言はみな、エイリアンの特徴についてはほぼ同様のことがらを述べている。

誘拐体験について数冊の本を著しているホワイトリー・ストライバーが、自分がエイリアンに誘拐されたことに気づいたのは、心理療法と催眠術を受けた後のことである。ストライバーはエイリアンが彼の家の屋根に火をつけるのを見たと主張している。彼は、一晩のうちにはるか遠くの星へ行って、帰ってきたと言う。彼とその家族だけがエイリアンとその宇宙船を見ることができて、他人には見えないのだという主張を信じてもらおうとしている。ストライバーはひどいノイローゼのせいでこんな馬鹿げたことを言っているのだが、自分の見たものやエイリアンに虐待されたことを、本当に信じているのだ。彼は自身の感覚を事細かに語っているが、私たちはこのことから、彼はエイリアンがやってくる前には、すでに心理的にひどい興奮状態にあった、とじゅうぶん信じることができる。不安が亢進した状態にある人はヒステリーになりがちであり、とくに行動や信念のパターンの急激な変化にたいして弱い。ストライバーは不安に襲われたとき、心理分析医ロバート・クラインとエイリアンアブダクション研究家バド・ホプキンスの診察を受けた。そして催眠術のもとで、ストライバーはおそろしいエイリアンとその襲来の記憶を甦らせたのだ。

ホプキンスは公共放送のテレビ番組 Nova で、自身の誠実さを示してみせるとともに、自身の調査者としての無能さも露呈した(“エイリアン・アブダクション”1996年2月27日に初回放映)。カメラはホプキンスが、非常に興奮して情緒不安定な状態にある“患者”を次から次へ診察していくのを追った。そしてNovaはホプキンスを追ってフロリダへ向かった。フロリダには、視力障害を抱えて、自分たちがエイリアンに誘拐されたと子供に信じ込ませている、ある母親がいた。彼はこの家族を献身的に介助しているのだ。ホプキンス氏は患者の診察を次々にこなす合間に、自分の著書について繰り返し宣伝し、そして“患者”から引き出したきわめて奇怪な主張をまったく疑わずに受け入れる理由を説いていた。エリザベス・ロフタス博士は、母親からエイリアンに誘拐されたと吹き込まれた子供たちを“カウンセリング”するホプキンスの方法について、 Nova から質問を受けた。Novaではホプキンスの仕事ぶりはほんのわずかしか紹介されなかったが、ホプキンス氏が記憶の捏造を助けているのは明らかだ。もっとも、ホプキンス氏は抑圧された記憶を甦らせているのだと主張しているが。ロフタス博士は、ホプキンスは彼の“患者”がもっと多く詳細を思い出すように促しており、新たな詳細が思い出される度に賞賛の言葉を与えている、と述べている。ロフタス博士は、こうした“カウンセリング”は子供にどのような影響を与えるかよくわかっていないため“危険性が高い”と指摘している。影響のひとつなら、確実に予測することができるだろう:こうした子供たちは、エイリアンに誘拐されたと信じて大人になる。こうした信念は記憶として深く刻み込まれるため、大人になってからこの“経験”が母親によって植えつけられ、ホプキンスのようなエイリアン愛好家によって掘り起こされたものだと考えさせるのは困難である。

ジョン・マック

エイリアン愛好家にはもう一人、ハーバードの精神科医ジョン・マック博士がいる。彼にはエイリアンに誘拐されたと主張する自身の患者についていくつか著書がある。マックの患者の多くについてはホプキンスも引用している。マック博士は、彼の精神疾患患者は精神的に病を抱えているわけではない、と主張し(ではなぜ彼らを治療するのだ?)、また彼らの誘拐話を真実だとする以外に説明しようがない、とも主張する。しかし、まともな医者やその患者が、誘拐が起きたとする物理的証拠を提出しないかぎり、マック博士や患者の言い分は妄想かウソだとする方が合理的だろう。たしかに、まともな医者は学問の自由や医師患者間の守秘義務の陰に隠れて出てこない、ということもありうる。彼は自分の主張を意のままに作り出して、患者の権利を侵害するおそれがあるという理由だけで、それらの開示をすべて拒否することもできるのだ。そしてその話を出版して、あえて学問の自由を損ねてしまうことだってできる。反対者は嫉妬しているのだろう、とすることもできる:詐欺で捕まることなど心配せずに、ウソをつくことができるのである。

Nova の番組“エイリアン・アブダクション”にはマック博士も登場した。彼は、自分の患者はエイリアンに誘拐されたりしなければ健常人なのだ、と主張した。だが、もし彼の患者が番組に出てきたホプキンスの患者のような状態であれば、問題となる部分だろう。またマックは、仮に信じられないような話を作り出したとしても患者には何一つ得るものはない、と主張している。知的な人はよく、騙されたり妄想を抱くのは低能だけだとか、もし動機が純粋なものなら証言も信用できる、という風に考えてしまいがちである。証言によって何かを得よう(名声とか財産とか)としている人の証言に対して懐疑的になるのが正当化できるのは正しい。だが、証言から何物も得ることのない人の証言は信じるべきである、というのは正しくない。無能な観察者や、酔っ払いやドラッグをやった観察者、不適任な観察者、あるいは妄想を抱いた観察者は、たとえかつては山の清水のごとく純粋であったとしても、信頼すべきでない。人が親切かつ礼儀正しく、しかもウソをついても何を得ることもないということは、その人の知覚認識に内在する誤りの免罪符とはならないのである。

マック博士はあることがら、つまり、彼の患者は誘拐体験者として注目を集めたのだということを述べていない。さらに、患者により詳細な“誘拐”の記憶を甦らせるよう促して、マック博士とホプキンスが名声と著書の売上げで何を得たのか。これについては、何も示されてないない。マックはエイリアン・アブダクションにかんする最初の著書の出版前に20万ドル受け取っている。マックは自身の心理学社会変革センターとその超常体験研究プログラムの広告をおこない、寄付を募っている。ところで、マック博士は患者たちの物語があまりに似通っているのに驚いている。また彼はオーラを信じており、妻の婦人病がエイリアンのせいかもしれないと信じていることを示している。ハーバードは学問の自由の名の下に、彼を教職員としている。

エイリアン・アブダクション伝説への貢献者にはもう一人、ロバート・ビグローがいる。彼はラスベガスの裕福な実業家で、個人の資金を超常研究に好んで使っており(チャールズ・タートの項目を参照)、とりわけエイリアン・アブダクションではローパー調査という資金を拠出している。この調査は参加者5,947名に、エイリアンに誘拐されたことがあるかどうか直接質問するものではない。その代わりに、以下の経験をしたことがあるかどうかをたずねるのだ:

-- 目が覚めると金縛りにかかっていて、部屋の中に誰か見知らぬ人か何かがいる気配を感じた。

-- 数分間あるいは数時間以上について、あきらかに記憶を喪失していて、そのあいだどこで何をしていたのか思い出せないという経験をした。

-- 部屋の中で、どこからやってきたのかわからない正体不明の、異様な光あるいは光る球体を見た。

-- 奇妙なひっかき傷がついているのを見つけたが、あなたも他のだれも、いつどこでそんな傷がついたのかまったくわからない。

-- なぜどうやってかはわからないが、まるで空を飛んでいるようにはっきりと感じる。

5つの“症状”のうち4つにイェスと答えれば、エイリアン・アブダクションの証拠となった。ジョン・マックの前書きが添えられた64ページにわたる報告書は精神科医、心理学者、その他精神医学研究者、あわせて10万人あまりに郵送された。本の通りだとすると、アメリカ人のうち400万人、あるいは地球人のうち1億人がエイリアンに誘拐されたということになる。カール・セーガンが苦笑まじりにコメントしたとおり、「隣人が誰も気づかなかったなんて、驚くべきことだ。」 郵送のタイミングは申し分のないものだった:ストライバーの侵入者 (Intruders)にもとづくCBSのミニシリーズ番組が始まる、その直前だったのだ。

エイリアンに誘拐されたと主張する人のうち何人かはおそらく詐欺師だろうし、ストレスが原因の人もいるだろうし、またおそらく深刻な精神疾患にかかった人も何人かいるだろう。だがこうした主張をする人たちのほとんどは、たんに夢想癖の強いふつうの人だろう。ほとんどの人は、自身の奇妙な体験を使ってテレビに出たり映画に売り込もうとする銭ゲバ人間なわけではない。言い換えるなら、こうした証言は、たとえほとんどではないにせよ、合理的なふつうの人によって下心なしにつくられる場合が多いのである。もしこうした人たちの主張がそれほど奇怪なものでなければ、こうした人たちの多くに猜疑のまなざしを向けるのは失礼だろう。エイリアン・アブダクション信仰の合理性を擁護する人たちは、こうした証言すべてがコンファビュレーションによるものだとは言えないという事実を指摘している。だがしかし、誘拐の記憶へアクセスするには、たいてい催眠術やその他の暗示法がよく使われている。催眠術は、正確な記憶へアクセスする手法としては信頼性が低いだけでなく、簡単に記憶を埋め込むことさえできる手法だ。さらに、エイリアンに誘拐されたと信じ込む人たちは夢想癖が強いことが知られている。夢想癖が強いことは、もし異常(abnormality)をマイノリティに属する信仰や行動と定義するなら、べつに異常なことではない。人間のうち圧倒的大多数は夢想癖が強く、さもなければ、人間は神や天使、精霊、不道徳、悪魔、ESP、ビッグフットなどなどを信じたりしないだろう。人は不合理な信仰が文化的に受容された妄想である限り、およそあらゆる方法で“ふつう”にふるまい、そして考えられる限りおよそ不合理な信仰を抱き続けるだろう。たとえば、人がなぜ宗教の物語を信じるのか、その答えを見つけ出そうとする努力はほとんどなされていない。だがしかし、文化が受容している妄想的な現象の範囲を逸脱するような見解をある人が抱くと、その人はその信仰を“説明”しろと要求されるのである。

文化的妄想の共有

エイリアンに誘拐されたと主張する人たちは、狂っているわけでも真実を語っているわけでもないのかもしれない。彼らは文化的妄想を共有しているのだ、と考えた方がいいのかもしれないのだ。こうした人たちは、暗いトンネルを通って明るい光の下へたどり着いたとか、あるいはイエスに手招きされたとかいった、臨死体験をした人たちと似ている。このような共有された経験は、その経験が幻想でないことの証明にはならない。これらは、臨死体験において互いに同じような脳の状態にあったか、あるいは互いによく似た生活体験や死生観を持ち合わせていたせいだろう。こうした代替説によれば、臨死体験者は完全に狂っているわけでもないし、本当に死んで別世界に行って戻ってきたのでもない、ということになる。脳の状態と文化的信仰の共有にかんしては、自然主義的な説明がなされている。

エイリアンに誘拐された人たちもまた、神秘体験者とよく似ているように見える。臨死体験者と誘拐体験者は、ともに私たちふつうの人には否定されるようなことがらを体験したのだと信じている。体験の証拠は、それが起きたのだという信念と、それについての報告でしかない。誘拐体験者を神秘体験者と比較するのは一見奇妙に思われるだろうが、それほどこじつけをしているわけであない。神秘体験の報告は、2つの基本的なカテゴリーに分類される:恍惚感と瞑想的なものである。この2種類の神秘体験には、それぞれ下敷きとなった逸話や証言がある。誘拐話と同様に、この2種類の神秘体験は互いにたいへんよく似ている。恍惚を感じた神秘体験者は、その言葉に言い表せないような体験を性的エクスタシーにたとえて言い表そうとする。暗やみから光の中で進む、というのは出生体験を思い起こさせるものだ。瞑想的な神秘体験者は自身の体験を、良き夜の眠りの追憶といったような、完全なる安らぎと至福として表現する。神秘体験がもっと進行すると、体験は明らかに死へたとえられる:完全なる調和状態、つまりは分裂も変化も、なにものもない状態である。手短に言えば、異なる国や異なる文化で生まれた神秘体験が互いによく似た内容で語られるということは、彼らの体験が事実であるということの証拠とはならないのである。神秘体験の内容が互いに似ているということは、人間は誰でもほぼ同じことを経験しているのだ、ということをいっそう裏づけるものでしかない。生と性、そして死については、どの文化でも知っていることだからだ。

誘拐体験者は神秘体験者と酷似しているだけではなく、悪魔に誘惑されたと信じた中世の修道女や、自分が獣姦をしたと思い込んだ古代ギリシャの女性、それに自分を魔女だと信じた女性などとも似ている。誘拐体験者のカウンセラーやセラピストは、迷妄な信念に挑戦するのではなく、それらを強化して育て上げてしまった古代の司祭のようなものだ。彼らは全力を上げて、こうした物語がごくあたりまえのものであるというふうに仕立て上げようとする。誘拐体験者のなかから、エイリアンの物語や、ストライバーのコミュニオンや侵入者といった書籍や、あるいはエイリアンを扱った映画を見て強い影響を受けていない者を見つけ出すのは、非常に難しい。ホプキンスのようなカウンセラーやマックのようなセラピストによって妄想がおおいに強化されたりしていない誘拐体験者を見つけ出すのは、もっと難しい。信者の共同体を信じて妄想がおおいに強化され、そしてエイリアンアブダクションのカルトにいる高位の司祭によって妄想を強化されてしまうとすれば、なぜエイリアンに誘拐されたなどと信じている人たちが今日これほど多く存在するのか、それほど難しいことではないのだ。

もし宇宙旅行をするほど賢いものが現代にいるとするなら、おそらく古代や中世にも、それら同じぐらい知的な存在がいて、同じように宇宙旅行をしていたことだろう。ところが、古代や中世の妄想にはエイリアンや宇宙船を登場させて語ったものはなかった。なぜなら、エイリアンも宇宙船も、今世紀になってつくられたものだからである。美人を誘惑するために神が白鳥の姿を借りたとか、悪魔が修道女を孕ませたとかいった思いつきを、私たちはあざ笑うことができる。というのも、こうした思いつきは私たちの文化的先入観や幻想とは相容れないものだからだ。おそらく古代や中世の人たちからすれば、よその惑星からやってきたエイリアンに拉致されてセックスや生殖手術をされたなどといった主張をこそあざ笑うだろう。誘拐体験者の言い分を今日誰もが深刻に受け取るのは、彼らの妄想が、私たちの文化的信念、つまり銀河旅行は現実に可能で、しかも宇宙にいるのは私たち人類だけでない可能性が非常に高いという信念と、必ずしも相容れないものではないからにすぎない。こうした信念のない時代であれば、誘拐話のような主張を真面目に受け取る者はいないだろう。

もちろん、私たちはこの問題を考えるにあたって、ないものねだりを抜きにして考えるべきではない。しかし、神秘体験を望む人たちがいるということを理解するのは、なぜエイリアンに誘拐されたがる人がいるのか理解するのよりは、多少は容易である。だが、人が神秘体験を求めることを容易に理解することができるのは、それが神への信仰と神との合一を希求する私たちの文化的先入観と関係しているからである。この生を超越したい、より高位へ上昇したい、肉体を捨て去りたい、高次の存在に選ばれて特別な務めを負いたい...これらひとつひとつはみな、神との合一への欲求や幽体離脱体験への欲求の場合と同じぐらい容易に、エイリアンに誘拐されたいという欲求のうちにも見出されうるのだ。

もちろん、マイケル・パーシンガーが論じたとおり、誘拐体験者は互いによく似た脳の状態にあったために、よく似た幻覚を表しているのだ、とすることもできる。同様に、神秘体験者の恍惚感や瞑想的な報告は肉体からの分離と超越的知覚によって生じた、互いによく似た脳状態におかれたために生じたのかもしれない。電極を使って脳の特定の位置を刺激することによって、パーシンガーはあたかも本物があるかのような知覚や、そのほか臨死体験、幽体離脱体験、神秘体験、それにエイリアン・アブダクションなどの知覚体験を再現した。生と性、それに死の言語とシンボルは、脳の状態にとっては、たんなる相似形にすぎないのだ。共有された(互いによく似た)体験を集めてみても、体験が妄想ではないと証明したことにはならないのだ。誘拐体験者がエイリアン・アブダクションだと思っている体験は、脳が特定の状態にあるために生じるのだろう。こうした状態は睡眠時麻痺や、そのほか脳の小発作といった睡眠障害によって生じるのかもしれない。睡眠時麻痺とは、人が眠りに落ちる直前の状態 (入眠状態、the hypnagogic state) か、あるいは眠りから完全に覚める直前の状態 (覚醒前状態、the hypnopompic state) である。この状態は、動いたり話したりすることができないということで特徴づけられる。この状態は、ある種の沈滞感や、あるいは恐怖感を惹起させるような感覚を伴うことがしばしばあるが、叫んだりすることはできない。この麻痺状態が続くのはほんの数秒程度である。睡眠時麻痺症状の記述は、多くのエイリアン・アブダクション体験者がその体験について記憶を頼りに記述したものと、非常によく似ている。多くのエイリアン・アブダクション妄想に関する報告だけではなく、超常体験や超自然体験などその他の妄想についても睡眠時麻痺が原因ではないかと考えられている。

もちろん、妄想で特徴づけられるある種の精神疾患も存在する。こうした疾患を抱えた人たちの多くは、神経伝達物質の生成と機能に作用する薬物を使って治療を受ける。治療は妄想を打ち消すのに、たいへん効果がある。パーシンガーは少なくとも1人にたいして抗発作薬による薬物治療をおこない、これは患者が繰り返し体験していたエイリアン・アブダクションと睡眠時麻痺を効果的に抑止した。正しい治療を受けることによって、無数の精神分裂症患者や躁うつ病患者が神や悪魔、FBI、CIA、それにエイリアンなどの妄想を抑止しているのだ。

エイリアン・アブダクションの話はもっともらしさに欠けているが、もし物理的証拠があれば、もっとも強硬派の懐疑論者であっても注意を払うだろう。残念ながら、物理的証拠として出されるものは、実体が伴っていないものでしかないのだ。たとえば、エイリアンが着陸した証拠として、UFOがこさえたとされる“擦り傷”が提出された。だが、科学者がこれらの場所を調べてみると、こうした痕はおよそどこにでもあるもので、くだんの“傷”はカビやその他の自然現象にすぎないことがわかった。

誘拐体験者の多くは身体に残された様々な傷や“スクープ・マーク”を示して、誘拐されて実験に使われた証拠だとしている。こうした痕はどうみても超常的なものではなくごくありふれた傷や経験のせいだと見なすことができるものだ。

物理的証拠のうち最もドラマチックなのは、エイリアンが鼻から、あるいは身体のあちこちに埋め込んだ、と多くの誘拐体験者が主張する“インプラント”だろう。バド・ホプキンスはこうしたインプラントを調査しており、数多くの主張を立証するためにMRI(核磁気共鳴画像診断)を持っていると主張している。Novaが誘拐体験者たちに、彼らの主張するインプラントについて科学者による分析と評価を受けてほしいと求めたところ、いわゆるインプラントを検証して確認してもらおうとする者は誰一人としていなかった。したがって、誘拐の証拠の中で、物理的証拠こそがもっとも弱いのである。

関連する項目:エリア51 (area 51)キャトル・ミューティレーション (cattle mutilations)ミステリー・サークル (crop circles)空飛ぶ円盤 (flying saucers)メン・イン・ブラック (Men in Black)ロズウェル (Roswell)UFO


The Skeptic's Refuge review of the Nova program on alien abductionsも参考に。



参考文献

読者のコメント

Baker, Robert. "The Aliens Among Us: Hypnotic Regression Revisited," The Skeptical Inquirer, Winter 1987-88.

Frazier, Kendrick. Editor, The UFO Invasion: The Roswell Incident, Alien Abductions, and Government Coverups (Prometheus, 1997).  $18.17

 Klass, Philip J. UFO-Abductions: a Dangerous Game (Buffalo, N.Y.: Prometheus Books, 1988).  $16.76

Kottmeyer, Martin S. "Entirely Unpredisposed: the cultural Background of UFO Abduction Reports," Magonia (January, 1960).

Loftus, Elizabeth. The Myth of Repressed Memory (New York: St. Martin's, 1994).  $11.16

Persinger, Michael. Neuropsychological Bases of God Beliefs (New York: Praeger, 1987).

Persinger, Michael A. "Religious and mystical experiences as artifacts of temporal lobe function: A general hypothesis," Perceptual and Motor Skills, 1983, 57, 1255-1262.

Sagan, Carl. The Demon-Haunted World - Science as a Candle in the Dark, ch. 4, (New York: Random House, 1995). $11.20

Schaeffer, Robert. "Unidentified Flying Objects (UFOs)", in The Encyclopedia of the Paranormal edited by Gordon Stein (Buffalo, N.Y.: Prometheus Books, 1996), pp. 767-777.

Schaeffer, Robert . The UFO Verdict (Amherst, N.Y.: Prometheus Books, 1986).

Copyright 1998
Robert Todd Carroll
Last Updated 11/13/98
日本語化 03/10/00

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