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© 2003-2006 武田正代+山形浩生
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第 1 章 竜巻
第 2 章 マンチキンたちとの会談
第 3 章 ドロシー、かかしを救う
第 4 章 森をぬける道
第 5 章 ブリキの木こりを救出
第 6 章 臆病ライオン
第 7 章 えらいオズへの旅
第 8 章 おそるべきケシ畑
第 9 章 野ネズミの女王さま
第 10 章 門の守護兵
第 11 章 すばらしいオズのエメラルドの都
第 12 章 邪悪な魔女をさがして
第 13 章 救出
第 14 章 翼ザルたち
第 15 章 おそろしきオズの正体
第 16 章 大ペテン師の魔術
第 17 章 とびたつ気球
第 18 章 南の国へ
第 19 章 たたかう木に攻撃される
第 20 章 優美なせとものの国
第 21 章 ライオン、獣たちの王に
第 22 章 カドリングたちの国
第 23 章 よい魔女グリンダ、ドロシーの願いをかなえる
第 24 章 おうちに帰る
ドロシーは農夫のヘンリーおじさん、その奥さんのエムおばさんと一緒にカンザスの大草原の真ん中で暮らしていました。家は、建てるための木材をずっと遠くから荷馬車で運んで来なければならなかったので、小さなものでした。四つの壁と、屋根と床が一つずつあって、それで一つの部屋でした。この部屋にはすすけたレンジ、お皿の戸棚とテーブルが一つずつと、三つか四つの椅子とベッドがありました。ヘンリーおじさんとエムおばさんの大きいベッドが隅に一つ、別の隅にドロシーの小さなベッドが一つありました。屋根裏部屋も、地下室も(通り道にあるどんな建物も押しつぶしてしまうほど強い旋風が起きた時、家族が入るための地面に掘った竜巻用地下室と呼ぶ小さな穴のほかには)ぜんぜんありませんでした。穴は床の真ん中にある落し戸につながっていて、そこからはしごが小さな、暗い穴へと降りていました。
ドロシーが戸口に立って見まわすと、どっちを向いても灰色の大草原しか見えません。見渡す限りの広い平原はどの方角へも空の端まで続き、木の一本、家の一軒もありませんでした。太陽が耕地をからからにして、小さなひびの入った灰色の土地にしてしまいました。草でさえ緑色ではありませんでした。太陽は他のどこでもと同じぐらい灰色になるまで、長い葉の表面を焦がしてしまったのです。いちど家に色を塗っても、太陽がペンキをぶかぶかにして、雨が洗い流してしまい、今では他の何もかもと同じぐらい灰色で退屈になってしまったのでした。
エムおばさんがそこに来て住み始めた時、おばさんは若くてきれいな奥さんでした。そのおばさんも、太陽と風が変えてしまいました。おばさんの目から輝きを奪って、地味な灰色にしてしまいました。おばさんの頬と唇から赤みを奪い、それも灰色にしてしまいました。おばさんは細くやつれて、今では決して笑わないのでした。孤児だったドロシーがおばさんのところに初めて来た時、エムおばさんは子供の笑い声にとてもびっくりして、ドロシーの明るい声が耳に届く度にキャッと叫んで胸の上に手を押し付けたものでした。それでもまだおばさんは、何か笑うようなことを見つけられた小さな女の子を不思議そうに見つめたのでした。
ヘンリーおじさんは決して笑いませんでした。朝から晩まで懸命に働いて、喜びが何なのかを知りませんでした。おじさんも長い髭から粗いブーツの先まで灰色で、頑固でまじめくさった顔をして、めったにしゃべりませんでした。
ドロシーを笑わせて、まわりと同じ様な灰色になるところを救ってくれたのはトトでした。トトは灰色ではありませんでした。トトは小さな黒い犬で、毛はつやつやで長く、ひょうきんでちっちゃい鼻の両側に小さな黒い目が陽気にきらめいていました。トトは一日中遊び、ドロシーも一緒に遊んでトトをとても可愛がりました。
でも今日は、遊んではいませんでした。ヘンリーおじさんは戸口の段に座って、いつも以上に灰色な空を心配そうに眺めていました。ドロシーもトトを抱いて戸口に立ち、空を眺めました。エムおばさんはお皿を洗っていました。遥か北の彼方から風が低くむせぶ音が聞こえ、ドロシーとヘンリーおじさんには長い草が嵐を前に波打っていたのが見えました。今度は鋭い風がヒューヒューと南からきて、目をそちらに向ければ、草原のさざなみがその方角からもきているのが見えたのです。
ヘンリーおじさんは突然、立ちあがりました。
「竜巻が来るぞ、エム」おじさんはおばさんに言いました。「家畜を見てくる。」そうしておじさんは牛と馬を飼っていた小屋へ走って行きました。おばさんは仕事をやめて戸口に来ました。おばさんはひと目で危険が迫っていると知りました。
「ドロシー、早く!」おばさんは叫びました。「地下室へ走りなさい!」
トトがドロシーの腕から飛び出てベッドの下に隠れてしまったので、ドロシーはトトを捕まえようとしました。ひどく怯えたエムおばさんは、床の落し戸を振り上げて、小さな暗い穴の中へ梯子を降りていってしまいました。ドロシーはやっとトトを捕まえて、おばさんの後をついて行こうとしました。ドロシーが部屋の半ばまで横切った時、風の甲高い音が聞こえ、家が激しく揺れたのでドロシーは足場をなくして、急に床の上に座り込んでしまいました。
そして奇妙なことが起こりました。
家は二、三度ぐるぐる回ってゆっくりと宙に昇ってゆきました。ドロシーは風船の中で昇っていっているような感じがしました。
家が立っているところで北と南の風がぶつかって、竜巻のちょうど真ん中になってしまいました。ふつう竜巻の真ん中の空は静かなのだけれど、風が強い圧力で家を取り巻いて、どんどん高く、竜巻のてっぺんまで持ち上げたのです。家はそのまま、まるで羽毛を飛ばすぐらいすんなりと、ずっとはるか遠くに運ばれてしまいました。
とても暗くて、ドロシーの周りでは恐ろしく風がうなっていました。でもドロシーは、かなり安々と乗っかっていたことに気付きました。初めに家が何度か旋回した後に、もう一度ひどく傾いた時、ドロシーはゆりかごの中の赤ん坊みたいに優しく揺られているように感じました。
トトはこれが嫌でした。うるさくほえながら、部屋中あっちこっち走りまわりました。でもドロシーは床にじっと座って、成り行きを見守っていました。
一度、トトが開いた落し戸に近づきすぎて中に落ちてしまった時、最初少女はトトを失ってしまったと思いました。でもすぐに、トトの片方の耳が穴の中から突き出ているのが見えました。空気の圧力がトトを持ち上げていて、落ちなかったのです。ドロシーは穴まで這っていって、トトの耳をつかんで部屋の中に引きずり戻しました。その後で、もう事故が起こらないように落し戸を閉じました。
何時間も経って、ドロシーはゆっくりと恐れを乗り越えました。でもとても寂しかったのでした。風が周りでとてもうるさい金切り声を上げたので、ドロシーはほとんど耳が聞こえなくなったくらいです。最初ドロシーは家が落ちたらこっぱみじんにされてしまうんじゃないかと思いました。でも何も恐ろしいことが起こらずに何時間か過ぎたので、ドロシーは心配するのを止めて、落ち着いて何かが起こるのを待とうと決めました。ついにドロシーは揺れる床を自分のベッドまで這ってゆき、その上に横になりました。そしてトトも続いてドロシーのそばに横たわりました。
家が揺れ、風はむせび泣いていたのに、ドロシーはすぐに目を閉じてぐっすりと眠入ったのでした。
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ドロシーは震動で起こされました。とても突然で激しかったので、もし柔らかいベッドの上に寝ていなかったら、けがをしていたかもしれないほどです。そんなふうでしたから、ドロシーはその衝撃に息をのんで、何が起こったのだろうと思いました。トトは冷たい小さな鼻をドロシーの顔におしつけて、クンクンと情けなく鳴きました。ドロシーは起きなおって、家が動いていないことに気づきました。暗くもありませんでした。明るい太陽の光が窓から入ってきて、小さな部屋に満ちていたのです。ドロシーはベッドから飛び出て、トトをすぐ後ろに続かせて走り、戸を開けました。
少女は驚きの叫び声をあげてあたりを見渡し、その素晴らしい景色を見た目は大きく、大きくなりました。
とてつもなく美しい土地の真ん中に、竜巻はとても静かに(竜巻にしては、ですが)家を降ろしました。立派な木々が濃厚で甘美な果実をたわわに実らせている、美しい芝生の区画がそこらじゅうに広がっていました。四方八方には見事な花々の土手があり、鮮やかで珍しい羽根の鳥たちは木々や茂みの間をはためき舞い、歌をうたっていました。少し離れた所には、緑の土手の間に沿って小川がサラサラときらめき流れ、乾いた灰色の大草原に長いこと住んでいた少女にはとても心地よく響いたのでした。
ドロシーは珍しくてきれいな光景に目をみはって立っていると、今までに見たこともないような奇妙な人々の一団がドロシーの方にやってくるのに気づきました。彼らはドロシーがいつも見馴れていた大人達ほど大きくはなかったけれど、とても小さいというほどでもありませんでした。実際、年のわりには大きいドロシーと同じくらいの背の高さなのに、見た目は何歳も年上のようでした。
みんな奇妙な恰好をしていて、三人が男の人で一人は女の人でした。三十センチぐらいの高さのとんがり帽をかぶっていて、動くたびにつばの周りの小さな鈴がかわいらしく鳴るのでした。男の人の帽子は青で、小さな女の人の帽子は白でした。女の人は白いガウンを、ひだをつけて肩から羽織っていました。ガウンには小さな星がまき散らしてあって、太陽の光のなかでダイヤモンドのようにきらめきました。男の人たちは帽子と同じ色合いの青い服を着て、ぴかぴかに磨いたブーツは上のほうの深い折り返しが青色でした。そのうち二人はひげをはやしていたので、男の人たちはヘンリーおじさんと同じくらいの年なのだとドロシーは思いました。でも小さな女の人は間違いなく、もっと年上でした。顔はしわだらけで髪はほとんど白く、ずいぶんぎこちなく歩いていました。
彼らはドロシーが戸口に立っている家に近づくと、立ち止まって内緒ばなしをして、まるでこれ以上近づくのをためらうようでした。でも小さなお婆さんはドロシーの所までやって来ると、深くおじぎをして優しい声で言いました。
「ようこそマンチキンの国へ、気高い魔術師さま。あなたが東の邪悪な魔女を殺してくれたので、人々は魔女の隷属から解放され、たいへん感謝しています」
ドロシーはこのあいさつを不思議に思いながら聞きました。いったいぜんたいドロシーが魔術師だなんて、それに東の邪悪な魔女を殺したですって、この小さな女の人は何を言っているのでしょう。ドロシーはずっと遠くの故郷から竜巻で運ばれてきた、純真で無邪気な少女で、今まで決してなにも殺したことはありません。
どうやら小さな女の人はドロシーの返事を待っているようでしたので、ドロシーはためらいがちに言いました。
「ご親切にありがとう。でもきっと何か誤解されてます。あたしは何も殺してません」
「とはいえ、あなたの家が、殺したのですよ」小さなお婆さんは笑いながら言いました。「だから同じことでしょう、ほら、」家の角を指さして、続けて言いました。「つま先がまだ木材の下から突き出てますよ」
ドロシーは見ると、ぎょっとして小さく叫び声をあげました。本当に、家を支える大きな横材の角の下から、銀色のつま先がとがった靴を履いた足が二本、突き出ていました。
「あら! まあ、まあ!」ドロシーはおろおろして両手をにぎりしめ、言いました。「家がこの人の上に落ちちゃったんだわ。どうしましょう」
「どうしようもないわ」小さな女の人は、落ち着きはらって言いました。
「でも、この人は誰なの?」ドロシーは聞きました。
「東の邪悪な魔女ですよ。さっき言った通り、」小さな女の人は答えました。「彼女は何年もマンチキンたちをしばりつけて、奴隷にして朝から晩まで働かせていたのよ。今ではみんな自由になって、あなたの親切に感謝しているの」
「マンチキンって?」
「東の邪悪な魔女が支配していた、この東の国に住む人たちのことよ」
「あなたはマンチキン?」ドロシーは尋ねました。
「いいえ、でも彼らの味方よ、私は北の国に住んでいるのだけどね。マンチキンたちは東の魔女が死んだとみると、私に急ぎの使いをよこしてきて、それで私がすぐにやって来たの。私は北の魔女よ」
「まあ、すごい!」ドロシーは叫びました。「あなた本物の魔女?」
「ええ、そうよ」小さな女の人は答えました。「でも私はみんなから好かれる、いい魔女よ。ここを支配していた東の魔女ほどの力はないけれど。そうじゃなかったら、自分で彼らを自由にしてあげていたわ」
「でも、魔女はみんな悪い人だと思ってたわ」少女は本物の魔女に向かっていたので、なかば恐がって言いました。
「まあ、それは大きな間違いだわ。オズの世界の魔女は四人だけで、北と南に住む二人はいい魔女なのよ。これは本当よ、私がその一人なんだから間違いないわ。本当に邪悪なのは、東と西に住む魔女よ。でも今あなたが一人殺したから、オズの世界の邪悪な魔女は西の魔女一人だけになったわ」
「でも」ちょっと考えてから、ドロシーは言いました。「エムおばさんは、魔女はみんなずっとむかしに死んだって言ってたわ」
「エムおばさん?」小さなお婆さんは尋ねました。
「カンザスに住んでいるあたしのおばさんよ。そこから来たの」
北の魔女は少しの間、考えているようでした。顔をうつむかせて、目は地面を見つめていました。そして顔を上げると、言いました。
「どこにあるのかも知らないわ、カンザスなんて今まで聞いたこともないからねえ。でも、ひとつ教えて。それは文明の進んだ国なのかしら?」
「ええ、そうよ」ドロシーは答えました。
「それで説明がつくわね。文明化された国にはもう魔女はいないと思うわ。魔法使いも、魔術師も、奇術師もいないのよ。でもね、オズの国はいちどだって文明化されたことなんてないでしょう、他の世界からは切り離されているのだもの。だからここにはまだ魔女や魔法使いがいるのよ」
「魔法使いは誰なの?」
「オズその人です、えらい魔法使いですよ」声をひそめながら、魔女は答えました。「オズは私たちみんなが束になってもかなわない力をお持ちなのよ。エメラルドの都に住んでいらっしゃるの」
ドロシーがもうひとつ質問をしようとした時、静かにそばに立っていたマンチキンたちが大きな叫び声をあげて、邪悪な魔女が倒れていた家の角を指差しました。
「どうしたの?」小さなお婆さんは聞きました。そして目を向けると、笑いだしました。死んだ魔女の足は全部消えて、銀の靴だけが残っていました。
「だいぶ年寄りだったから、」北の魔女は説明しました。「太陽ですぐにひからびちゃったのよ。もうこの人もおしまいよね。これで銀の靴はもうあなたのものよ、あなたが履くべきだわ」そして手を伸ばして靴を拾いあげ、ほこりを払ってドロシーにわたしました。
「東の魔女はこの靴がご自慢でした」マンチキンの一人が言いました。「何か魔法がかかっているのです。それが何なのか、私たちには分からずじまいでしたが」
ドロシーはその靴を家の中へ持って入り、テーブルの上に置きました。そしてマンチキンたちの所へもどってくると、言いました。
「あたし、どうしてもおばさんとおじさんの所へ戻りたいの。心配しているに違いないわ。どうやったら帰れるのかしら」
魔女とマンチキンたちはお互いの顔を見合わせ、ドロシーの顔を見て、首を振りました。
「東の方には、」一人が言いました。「ここからそう遠くない所に広い砂漠があって、誰も生きては通れませんよ」
「南も同じ、」もう一人が言いました。「そこに行ってこの目で見てきたものでね。南はカドリングたちの国ですよ」
「聞くところによると、」三人目が言いました。「それは西も同じようです。ウィンキーたちが住む国は、邪悪な西の魔女に支配されていて、そこを通り過ぎようものなら、奴隷にされてしまうということですよ」
「北は私の故郷よ」お婆さんは言いました。「そのはずれにもやっぱり砂漠があって、このオズの世界を取り囲んでいるのよ。かわいそうだけど、私たちと一緒に暮らすしかないようだわね」
ドロシーはこれを聞いて、すすり泣きだしました。こんな見知らぬ人たちのなかで、一人ぼっちに思えたのです。ドロシーの涙は、優しい気だてのマンチキンたちを悲しませたようです。彼らもすぐにハンカチを取り出し、泣きはじめました。小さなお婆さんのほうは、おごそかな声で「いち、にの、さん」とかぞえながら、帽子を脱いでてっぺんを鼻の先に上手にのせました。帽子はあっという間に黒板になって、白いチョ―クでこう書かれていました。
「ドロシーをエメラルドの都へ」
小さなお婆さんは鼻から黒板をとって読むと、聞きました。
「あなたの名前はドロシーというの?」
「はい」ドロシーは涙をふきながら顔を上げて答えました。
「ではあなたはエメラルドの都へ行かなくては。もしかすると、オズが助けてくださるかもしれないわ」
「それはどこにあるの?」ドロシーは聞きました。
「この世界のちょうど真ん中にあって、あなたに話した、えらい魔法使いのオズに支配されているのよ」
「オズはいい人なんですか?」ドロシーは心配そうに、たずねました。
「いい魔法使いよ。人なのかどうか、私は会ったことがないからわからないけれど」
「どうやったらそこへ行けるの?」ドロシーは聞きました。
「歩かなくてはいけないわね。ときには楽しく、ときには暗くて恐ろしい所も通る、長い旅になるわ。でも、私の知る限りの魔法を使って、あなたを守ってあげましょう」
「一緒にきてくれませんか?」小さなお婆さんをただ一人の友達だと思いはじめた少女は、お願いしました。
「それはできないわ」魔女は答えました。「でもあなたにキスをしてあげましょう。北の魔女からキスを受けた人には、だれも手出しできないのよ」
魔女はドロシーに近づいて、額に優しくキスをしました。ドロシーはすぐ後で気づいたのですが、魔女の唇がふれた所には、丸く光る跡が残っていました。
「エメラルドの都への道は、黄色いレンガが敷かれているから、」魔女は言いました。「道を見失うことはないわ。オズのところに着いたら、怖がらずに事情を話して、助けてもらうようにお願いなさい。さようなら、おじょうさん」
三人のマンチキンはドロシーに深くおじぎをして、よい旅になりますようにとあいさつしたあと、木々の間をぬけて歩いていってしまいました。魔女はドロシーに優しげに小さくうなずき、左足のかかとを立てて、三回ぐるぐるっと回ると、あっという間に姿を消してしまいました。これにはトトがびっくりして、魔女が消えたあとに向かってうるさく吠えました。というのも、魔女がいたときは恐くて吠える事さえできなかったのです。
でもドロシーはお婆さんが魔女だと知っていましたし、魔女はそういうふうに消えるものだと思っていたので、ちっともおどろきませんでした。
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ひとりきりで取り残されると、ドロシーはおなかがすいてきました。そこで食器棚のところへいって、パンを何枚か切り、バターを塗りました。それを少しトトにもあげると、棚からバケツをとって、小さな小川におりると輝くきれいな水で満たしました。トトは木々のほうに駆けだして、そこにとまった鳥たちに吠えだしました。ドロシーはトトをつかまえにいきましたが、木の枝から実においしそうな果物がぶら下がっていたのでいくつか取りました。ちょうど朝ご飯の材料に好都合だったからです。
それから家に戻り、トトといっしょに冷たいきれいな水をのんでから、エメラルドの都に向けて旅のしたくを整えはじめました。
ドロシーは他に一着しか服をもっていませんでしたが、それがちょうど洗濯したてで、ベッドの横の釘にかかっていました。青と白のチェック模様のギンガムで、青は洗濯を重ねるうちにちょっとあせていましたが、それでもきれいなワンピースです。ドロシーは念入りに顔を洗うと、きれいなギンガムを着て、ピンクの日よけボンネットをかぶってひもをゆわえました。小さなバスケットを取ると、食器棚のパンを詰め、そのてっぺんに白い布をかぶせます。それから足下を見て、自分のくつがとても古くてボロボロなのに気がつきました。
「どう考えても長旅ではもたないわねえ、トト」とドロシーは言いました。トトもその小さな黒い目でドロシーの顔を見上げ、尻尾をふっておっしゃるとおりですという意味を伝えました。
そのときテーブルの上に、東の魔女のものだった銀のくつが置いてあるのが目に入りました。
「あたしにあうかしら」とドロシーはトトに言いました。「長いこと歩くにはちょうどいいもの、だってすり減ったりしないから」
そこで古い革靴をぬいで銀のくつをはいてみると、あつらえたようにぴったりです。
最後に、ドロシーはバスケットを手に取りました。
「いらっしゃいな、トト。エメラルドの都にいって、どうすればカンザスにもどれるかをえらいオズにききましょう」
ドアを閉じて鍵をかけると、気をつけて鍵をドレスのポケットにしまいました。そして落ち着き払ってトコトコとついてくるトトをしたがえて、ドロシーは旅に出たのです。
近くには道が何本かありましたが、黄色いれんが敷きの道はほどなく見つかりました。じきにドロシーは元気よくエメラルドの都に向かって歩き、銀の靴は硬い黄色い路面にあたって陽気にカタカタと鳴っています。いきなり自分の国から連れ去られて、見知らぬ国の真ん中に置き去りにされた女の子ならずいぶんとこわいだろうとお思いでしょうが、太陽はまばゆく鳥の声は甘く、ドロシーはちっともこわい気がしないのでした。
歩きながら、まわりの国がとてもきれいなのでドロシーは驚きました。道の両脇にはきちんとした柵があって、きっちり青く塗られており、その向こうには穀物や野菜の畑がたっぷりと広がっています。マンチキンたちはまちがいなくよいお百姓さんで、たくさん作物を作れたのでした。ときどき家の横を通ると、人が出てきてドロシーたちを眺め、通り過ぎる彼女に深々とおじぎをします。というのもみんな、悪い魔女を始末してくびきから解放してくれたのがドロシーだというのを知っていたからです。マンチキンたちの家はへんな住まいでした。どれも丸くて、屋根はおっきなドームになっていたのです。それがみんな青く塗ってあります。というのもこの東の国ではみんな青がいちばん好きだったからです。
夜が近くなると、ドロシーは長いこと歩いたので疲れてきて、今夜はどこですごそうかと思案しはじめました。ちょうどそのとき、他のよりも大きめの家を通りかかりました。その前の緑の芝生では、男の人や女の人がたくさん踊っています。バイオリン弾きが五人、思いっきり大きな音で演奏し、みんな笑っては歌い、そして近くの大きなテーブルにはおいしそうな果物やナッツ、パイやケーキなどのすてきな食べ物が山積みになっていました。
みんなは親切にドロシーをむかえて、いっしょに晩ご飯を食べて今夜は泊まっていきなさいと招待してくれました。というのもこれはこの地でいちばん豊かなマンチキンの一人が住んでいる家で、その友だちが集まって、悪い魔女の支配からかいほうされたのをお祝いしていたのです。
ドロシーは心づくしの晩ご飯を食べました。給仕をしてくれたのは豊かなマンチキン本人です。名前はボク。そして長いすにすわって、みんなが踊るのをながめました。
ボクは銀の靴を見てこう言いました。
「あなたはとてもえらい魔女なんですね」
「どうして?」とドロシー。
「銀のくつをはいているし、悪い魔女を殺したからです。それにワンピースにも白が入っていますね。白い服を着るのは魔女や女魔法使いだけですから」
「あたしのお洋服は青と白のチェックよ」とドロシーは、服のしわをのばしながら言いました。
「それを着てくださるとは親切ですね。青はマンチキンの色だし、白は魔女の色です。だからそれを見ればあなたが親切な魔女なのはわかります」
ドロシーは何と答えていいかわかりませんでした。というのもみんなが自分を魔女だと思っているようで、でも自分では、竜巻のおかげでたまたま不思議なところにやってきただけの、ただの女の子なのをよく知っていたからです。
踊りを眺めるのにも飽きると、ボクはドロシーを家の中に案内して、きれいなベッドのある部屋を使うようにと言ってくれました。シーツは青い布で、ドロシーは朝までぐっすりと眠り、トトはその横の青いじゅうたんの上で丸まっていました。
朝ご飯をたっぷり食べ、ちっちゃなマンチキンの赤ちゃんをながめました。赤ちゃんがトトと遊んでしっぽを引っ張り、声をたてて笑うようすは、ドロシーにはとても楽しいものでした。トトはみんなの好奇心の的です。というのも、みんなこれまで犬を見たことがなかったからです。
「エメラルドの都はどのくらい遠いんですか?」とドロシーはたずねました。
ボクは重々しく答えました。「知りませんなあ。というのもわたしは一度もいったことがないんです。用事がない限り、オズには近づかないにこしたことはありません。でもエメラルドの都まではずいぶんとありますし、何日もかかります。ここの国は豊かで快適ですが、旅を終えるまでには厳しいきけんな場所も通らなくてはなりませんよ」
これをきいてドロシーはちょっと心配になりましたが、でもカンザスに戻るのを助けてくれるのはえらいオズだけだというのを知っていたので、あともどりはしないぞ、とゆうかんに決意しました。
友人たちにさよならを言うと、また黄色いれんがの道をたどりはじめました。何キロか歩いて、ちょっときゅうけいしようと思いましたので、道の脇の柵にのぼってすわりました。柵の向こうには広いトウモロコシ畑が広がり、すぐそばにかかしが高いさおのてっぺんにいて、鳥たちが熟したトウモロコシに近づかないようにしていました。
ドロシーは手にあごをのっけて、考え深そうにかかしを見つめました。頭はわらをつめた小さな袋で、目や鼻や口を描いて顔にしてあります。どこかのマンチキンの持ち物だった、古い青いトンガリ帽が頭にのっかり、身体の残りも青い服のひとそろいで、こちらもわらがつまっています。足には、この国の人がみんなはいているトップの青い古いながぐつがはかされていて、背中にさおが差し込まれて全体がトウモロコシのくきの上に持ち上げられています。
かかしの奇妙な顔の絵を見つめていますと、片目がゆっくりとウィンクしたのでドロシーはびっくりしました。最初はなんかのまちがいだろうと思いました。というのも、カンザスのかかしはどれもウィンクなんかしなかったからです。でもこのかかしはやがてゆっくりと、こちらに会釈をしました。そこでドロシーは柵をおりてかかしに近寄りました。トトはさおのまわりを走り回って吠えています。
「こんにちは」とかかしはちょっとしゃがれた声で言いました。
「いま、しゃべった?」とドロシーはびっくりして言いました。
「もちろん」とかかしがこたえます。「ごきげんいかが?」
「とても元気です、どうも」とドロシーは礼儀正しくこたえました。「そちらはごきげんいかが?」
「あまりいい気分じゃないなあ」とかかしはにこにこしながら言いました。「昼も夜もここのてっぺんでカラスを追い払うのはとっても退屈なんだよ」
「降りられないの?」とドロシー。
「いや、このさおが背中につきささってるから。このさおをぬいてもらえませんか? そしたらすごく恩義に感じますよ」
ドロシーは両うでをのばして、かかしをさおからおろしてあげました。わらがつまっているだけだったので、とても軽かったのです。
かかしは地面におりて言いました。「どうもありがとう。まっさらな人間になった気分だ」
ドロシーは首をかしげました。というのもつめものをした人がしゃべるのを耳にするのは変な感じでしたし、それがおじぎをして隣を歩いているとなればなおさらです。
「きみはどなた? どこへいくの?」
「あたしはドロシー。エメラルドの都にいって、えらいオズにカンザスに返してくれるようお願いするの」
「エメラルドの都ってどこにあるの? オズってだれ?」とかかしは追求しました。
「あら、知らないの?」ドロシーはおどろいてききかえします。
「うん、知らないんだよ。ぼくは何にも知らないんだ。だって、わらがつまってるだけだから、脳みそががないだよ」かかしは悲しそうに答えました。
「あら。それは本当におきのどくね」とドロシー。
「きみといっしょにエメラルドの都にいったら、えらいオズは脳みそをくれるかな?」
「わかんないわ。でもいっしょにきてもいいわよ。オズが脳みそをくれなくても、いまより悪くなるわけじゃないでしょ」
「それもそうだ」とかかしは言いました。そしてないしょばなしをするように続けます。「いやね、手足や胴体がわらでつまってるのはかまわないんだよ。けがをしないからね。だれかが足を踏んだりピンを刺したりしても、感じないからどうでもいいんだ。でもバカとは呼ばれたくないんだよ。きみみたいに頭に脳みそが入ってないで、かわりにわらがつまっていたら、ぼくは何にも知ることができないでしょう」
「そのきもちはわかるわ」と少女は、本当にかわいそうに思って言いました。「いっしょにきたら、オズにできるかぎりのことをしてくれるようにお願いしてあげる」
「ありがとう」とかかしはうれしそうに言いました。
二人は道のほうに戻り、ドロシーはかかしが柵をこえるのを手伝ってあげて、そして黄色いれんがの道をたどってエメラルドの都に出発しました。
トトは最初、一行に人が増えたのが気に入りませんでした。つめもの男をクンクンかぎまわり、わらの中にネズミの巣があるかもしれないぞ、とでもいわんばかりでしたし、こわい感じでうなってみせます。
「トトのことは心配しないで。絶対かまないから」とドロシーは新しい友だちに言いました。
かかしは答えました。「別にこわくはないよ。わらにきずをつけたりはできないし。そのバスケットはぼくが持とう。ぼくはかまわないんだよ、疲れたりできないから。秘密を教えてあげよう」とかかしは、歩きながら続けます。「この世でぼくがこわいものはたった一つしかないんだ」
「何なの? あなたを作ったマンチキンのお百姓さん?」とドロシー。
かかしは答えます。「いいや。火のついたマッチだよ」
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何時間かたつと道が悪くなってきて、とても歩きにくくなったので、かかしはしょっちゅう黄色いれんがにつまづくようになりました。れんががここではとてもでこぼこしていたのです。それどころか、割れたりなくなっているところもあって、ぽっかりあいた穴をトトは飛び越えたしドロシーはよけて歩いたのでした。かかしはというと、脳みそがないのでまっすぐそのまま歩き、穴に足をつっこんで、固いれんがに思いっきり倒れます。でもそれでけがをしたりはしないので、ドロシーが抱え上げてまた両足で立たせて、そして二人でかかしのへまぶりを陽気に笑うのでした。
このあたりでは、畑もさっきほどはきちんと手入れがされていません。家も少なく、果樹も少なく、先に進むにつれてあたりは陰気で寂しくなってきました。
お昼になると、二人は道ばたに腰をおろし、ドロシーはバスケットを開けてパンを取り出しました。一切れかかしに進めましたが、断られました。
「ぼくは決しておなかがすかないんだよ。そしてそれは運がよかった。だってぼくの口は描いてあるだけだから、食べられるように穴をあけたら中につまったわらが出てきて、頭の形が台無しになっちゃうだろう」
ドロシーはすぐに、かかしの言う通りなのを理解しましたので、うなずいただけで自分のパンを食べ続けました。
「きみのことを話してよ、それときみの国のことも」ドロシーが食事を終えるとかかしは言いました。そこで、カンザスの話をしてあげました。そこでは何もかも灰色で、竜巻がこの不思議なオズの土地へと自分を運んできたことも。かかしは一心に耳を傾けてこう言いました。
「どうしてきみがこの美しい国を離れて、そのカンザスとかいう乾燥した灰色の場所に戻りたいのかわかんないな」
「それはあなたに脳みそがないからよ」とドロシーは言いました。「家がどんなに陰気で灰色でも、血と肉でできたあたしたち人間は、他のどんなにきれいなところよりもカンザスで暮らしたいのよ。おうちほどすてきな場所はないんだから」
かかしはため息をつきました。
「もちろんぼくにはわからないよ。きみたちの頭もぼくみたいにわらがつまっていたら、たぶんみんな美しいところに住むことになって、カンザスにはだれもいなくなるだろうね。カンザスとしては、きみたちが脳みそを持っていてくれてありがたいことだね」
「せっかく休んでいるんだから、あなたもお話をしてくれないかしら?」と子供は頼みました。
かかしはとがめるようにドロシーを見つめてから答えました。
「ぼくの一生は短すぎるから、ぼくは何一つ知らないんだよ。作られたのはほんのおとといだからね。その前にこの世で何が起きたかは、ぼくはぜんぜん知らない。運のいいことに、お百姓さんがぼくを作ったときに、真っ先にやったのは耳を描くことだったんだ。だから何がおきているか聞くことはできた。もう一人別のマンチキンがいて、真っ先に聞こえたのはお百姓さんのこんなせりふだったんだ。
『この耳はどう思う?』
『ゆがんでるじゃないかよ』ともう一人のマンチキン。
するともう一人が『別にかまわんよ。耳は耳だ』と言ったんだけど、それはその通りだね。
『じゃあこんどは目だ』とお百姓さん。そして右目を描いたんだけど、それが完成すると同時に、ぼくは大いに好奇心をもって、お百姓さんや身の回りすべてのものを眺めていたんだ。というのも、この世界を見るのはこれが初めてだったからだよ。
『なかなかきれいな目だな』とお百姓さんの様子をみていたマンチキンが言った。『青ペンキは目の色としてはばっちりだ』
『もう片方の目はもっと大きくしよう』と百姓さんは言って、二番目の目ができたときには、前よりずっとよく見えるようになった。それから鼻と口を描いたんだ。でもぼくはしゃべらなかった。というのも、そのときには口が何のためにあるか知らなかったんだよ。二人がぼくの身体や腕や脚を作るところを眺めるのは楽しかったなあ。そして最後に頭をくっつけたときには、とても誇らしい気分だったよ。自分が他のだれにも負けないいっぱしの人になれたと思ったからね。
『こいつならすぐにカラスどもを脅かしてくれるぞ。人間そっくりじゃないか』とお百姓さん。
『うん、まさに人間だ』と相手が言って、ぼくもまったく同意見だった。お百姓さんはぼくを脇に抱えてトウモロコシ畑に連れ出して、高い棒の上にのせたんだ。きみが見つけてくれた場所だよ。それからお百姓さんは友だちとどこかへ行って、ぼく一人をあとに残していったんだ。
こんな具合に一人にされるのはいやだったので、二人の後を歩いて追いかけようとしたけれど、足が地面に届かなくてだめだったので、あのさおの上にいるしかなかった。さびしい人生だったよ、というのも作られたばかりだったから、何も考えることがなかったし。カラスなんかの鳥がトウモロコシ畑に飛んできた。でもぼくを見たとたんに、ぼくがマンチキンだと思って飛び去った。これは嬉しかったよ、自分がなかなか重要人物みたいな気持ちになれたからね。そのうち年寄りカラスが近くに飛んできて、ぼくを注意深く眺めてから、肩にとまってこう言ったんだ。
『あの百姓は、わしをこんなまぬけなやりかたでだませるつもりだったのかね。気の利くカラスならだれでも、おまえがわらをつめただけなのはすぐわかる』そしてぼくの足下に飛び降りると、好きなだけトウモロコシを食べた。他の鳥も、カラスがぼくにやられないのを見て、みんなトウモロコシを食べにきたので、すぐにぼくのまわりには大きな群れが集まった。
これは悲しかったよ。自分が実はあまりいいカラスじゃないってことだったから。でも年寄りカラスはぼくをなぐさめてくれたんだ。『おまえのおつむに脳みそさえあれば、他のだれにも負けないくらいのいっぱしの人になれるんだがね。そうなりゃ一部の連中よりましにさえなるだろうよ。カラスだろうと人だろうと、この世で持つ価値があるものといったら脳みそだけだよ』
カラスがいなくなると、ぼくはこれをよく考えてみて、なんとかして脳みそを手に入れようと思ったんだ。運のいいことにきみが通りかかって、棒から引っ張りおろしてくれたし、きみの話だとえらいオズはエメラルドの都についたらすぐに脳みそをくれるにちがいない」
「そうだといいわよねえ。そんなに脳みそがほしいんですもんね」とドロシーは心から言いました。
「うん、ほしくてたまらないんだよ。自分がバカだと思うのはとっても心持ちが悪いんだ」とかかしは答えます。
「それなら、いきましょう」とドロシーはバスケットをかかしにわたしました。
いまはもう道の両側には柵もなく、土地も荒れて畑になっていませんでした。夜が近づくと大きな森にやってきました。木がとても大きく密生しているので、枝だが黄色いれんがの道の上でくっついています。枝だが日光を遮るので、木の下はほとんど真っ暗でした。でも旅人たちは立ち止まることなく、森の中に入っていきました。
「入った道はどこかで出るはずだよ」とかかしは言いました。「そしてエメラルドの都はこの道のつきあたりにあるんだから、どこへでもこの道をたどっていかないとね」
「そんなのだれでもわかるわ」とドロシー。
「もちろん。だからぼくにもわかったんだよ。脳みそを使わないと思いつけないようなことなら、ぼくには絶対にいえなかっただろうよ」とかかしが答えました。
一時間ほどして光がなくなると、ふたりはあちこちつまづきながら、真っ暗な中を進んでいきました。ドロシーには何も見えませんでしたが、トトには見えました。というのも犬はとても夜目がきくのです。そしてかかしは昼間と同じくらいよく見えると主張しました。そこでドロシーはかかしのうでにつかまって、なかなか上手に先を進んだのです。
「家とか、一夜をすごせそうな場所を見つけたら絶対に教えてね。暗い中を歩くのはとても不安だから」とドロシー。
やがてかかしは足を止めました。
「右手に小さな小屋があるよ。丸太や枝だでできてる。入ってみようか?」
「ええ是非。もうくたくたよ」
そこでかかしは、ドロシーを連れて木の間をぬけて小屋にたどりつき、そこに入ると片隅に乾いた葉っぱでできたベッドがありました。ドロシーはすぐにそこに横たわり、トトをかたわらに、すぐにぐっすり寝てしまいました。疲れを知らないかかしは、別の隅に立ったまま、朝がくるのを辛抱強く待ちました。
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ドロシーが目を覚ますと、木の間からお日様がかがやいていて、トトはとっくに起きて鳥やリスを追いかけていました。かかしはしんぼうづよく自分の隅に立って、ドロシーを待っていました。
「水をさがしにいかないと」とドロシーはかかしにいいました。
「水って、なんのために?」とかかし。
「道中のほこりを顔からきれいに洗い流すのと、乾いたパンがのどにくっつかないように飲むためよ」
「肉でできてるってのは不便だねえ」とかかしは考え深そうに言いました。「寝なきゃいけないし、食べたり飲んだりしなきゃいけないんだもの。でも、きみには脳みそがあるから、きちんと考えられるんならそれなりの苦労をするかいもあるんだろうね」
二人は小屋をあとにして森の中を歩き、澄んだ水の小さな泉を見つけました。ドロシーはそこで水を飲み、水浴びをして朝ご飯を食べました。バスケットのパンは残り少なかったので、かかしが何も食べないのはありがたいなと思いました。というのも、自分とトトの分だけで今日一日もつくらいしか残っていなかったのです。
ご飯を終えて、黄色いれんがの道に戻ろうとしたとき、近くで大きなうめき声がしたので、ドロシーはとびあがりました。
「いまのは何?」とびくびくしてドロシーはたずねます。
かかしは答えました。「想像もつかないけど、調べにいこうか」
ちょうどそのとき、もう一度うめき声がしました。音は後ろからきているようでした。そこでふりむいて、森の中に一歩、二歩と入ってみたところ、ドロシーは木の間に落ちるお日様の光で輝くものを見つけたのです。そこに向かってかけだしましたが、手前のところでおどろきの声をあげて立ち止まってしまいました。
大きな木が一本、途中まで切られていて、その隣には斧を振り上げたままの姿で、全身ブリキでできた男の人が立っていたのです。頭と腕と脚は胴体に関節でつながっていましたが、まったく身動きせずに立ちつくし、少しも動けないかのようです。
ドロシーはあぜんとしてそれを見つめました。かかしもです。トトは鋭く吠えて、ブリキの脚にかみつきましたが、歯をいためてしまいました。
「あなた、うめきましたか?」とドロシーはきいてみました。
「はい」とブリキの男は答えます。「うめきました。一年以上もうめきつづけているんですが、これまでだれもききつけてくれないし、助けにもきてくれなかったんです」
「何かお手伝いしましょうか?」とドロシーはそっとたずねました。その人の悲しそうな声に胸を動かされたからです。
「油のカンを取ってきて、関節に油を差してください。ひどく錆びてしまって、少しも動かせないんです。きちんと油をさせば、すぐに元通りになりますから。油のカンは、わたしの小屋のたなにあります」
ドロシーはすぐに小屋にかけもどって油のカンを見つけ、ブリキの男のところに戻って、心配そうにたずねました。「関節はどこにあるの?」
「まずは首をお願いしますよ」とブリキの木こり。そこでドロシーが油をさしました。そしてひどくさびていたので、かかしがブリキの頭をつかんで、ゆっくり左右に動かしてあげて、やがて首は自由に動くようになりました。するとブリキの木こりは、自分で首が動かせるようになったのです。
「こんどはうでの関節をお願い」と言われて、ドロシーはうでに油をさし、かかしが気をつけながらそれを曲げたり伸ばしたりしてあげると、さびが完全に取れて、新品同様になりました。
ブリキの木こりは満足そうなため息をついて斧をおろし、木にたてかけました。
「いやあ、いい気分だ。さびついてからずっとあの斧をふりあげていたので、やっとおろせてありがたい。さて今度はあしの関節に油を差していただけたら、もう全部だいじょうぶになりますよ」
そこでみんなはあしにも油をさして自由に動けるようにしてあげました。ブリキの木こりは助けてもらったことに何度も何度もお礼を申しました。とても礼儀正しくて、とてもよろこんでいるようです。
「みなさんが通りかからなかったら、いつまでもあそこに立っていたでしょうよ。だからお二人はまちがいなく命の恩人です。どうしてこんなところへ?」
「エメラルドの都へ、えらいオズに会いにいくところよ。あなたの小屋で夜明かしをしたんです」とドロシー。
「どうしてオズに会おうなどと?」とブリキの木こり。
「あたしはカンザスに送り返してほしいから。そしてかかしは頭に少し脳みそを入れてほしいのよ」とドロシーは答えました。
ブリキの木こりは、しばらく深く考えこみました。そしてこう言いました。
「オズはわたしに心をくれるでしょうか?」
「あら、くれるんじゃないかしら。かかしに脳みそをあげるのと同じくらい簡単なはずよ」とドロシー。
「確かに」とブリキの木こりが答えました。「それなら、もし一行に加えていただけるのでしたら、わたしもエメラルドの都にいって、オズに助けてもらいましょう」
「いっしょにおいでよ」とかかしは真心こめていいました。そしてドロシーも、いっしょにきてくれれば大歓迎だと言い添えました。そこでブリキの木こりは斧を肩にかついで、みんなで森をぬけて、黄色いれんがを敷いた道にやってきました。
ブリキの木こりは、油のカンをバスケットに入れておいてくれるように頼みました。「また雨にふられてさびてしまったら、油のカンがどうしてもいりますから」
新しい仲間が加わったのはなかなか運のいいことでした。というのも、旅を再開して間もなく、木や枝だが路上にあまりにびっしり茂って通れないところにさしかかったからです。でもブリキの木こりはすぐに斧をふるって上手にきりひらいたので、やがて全員が通れるくらいの通路ができました。
ドロシーは歩きながら一心に考えごとをしていたので、かかしが穴にころがり落ちて、道のわきに転がってしまったのにも気がつきませんでした。かかしは、助けてくれとドロシーに呼びかけなくてはなりませんでした。
「穴をよけて通ればよかったのではありませんか?」とブリキの木こりはたずねました。
「そこまで頭がよくないんだよ」とかかしは上機嫌で言います。「ほら、頭にわらが詰まっているだろ。だからオズにいって、脳みそをくださいと頼むんだよ」
ブリキの木こりは言いました。「ああなるほど。でも結局のところ、脳みそはこの世でいちばんいいものってわけじゃありませんから」
「きみは脳みそがあるの?」とかかしがたずねます。
「いいえ、頭はまったくの空っぽですよ。でも昔は脳みそもあったし、心もあったんです。両方試したうえで言うと、わたしは心のほうがずっとほしい」
「それはまたどうして?」とかかし。
「身の上話をしてあげましょう。そうすればおわかりいただけるはず」
そこで森を歩きながら、ブリキの木こりはこんなお話をしたのでした:
「わたしは森の木を切って材木を売る木こりの息子として生まれました。大きくなると、わたしも木こりになり、お父さんが死ぬと、年老いたお母さんの面倒を死ぬまで見ました。それからひとりぼっちで暮らすより結婚したほうがさびしくないだろうと思ったのです。
マンチキンの女の子の中に、実に美しい娘がおりまして、やがてわたしは心のそこからその子を愛するようになりました。相手も、もっといい家を建てられるほど稼げるようになったら、すぐにも結婚しようといってくれました。でもその子がいっしょに暮らしていた老婆は、だれとも結婚させたくなかったんです。この老婆はなまけもので、彼女がずっといっしょにいて、料理や家事をやってほしいと思っていたのです。そこでこの老婆は東の邪悪な魔女のところへ出かけて、結婚をじゃましてくれたらヒツジ二頭とウシ一頭をあげると約束したんです。そこで邪悪な魔女はわたしの斧に呪文をかけて、わたしが精一杯木を切っていると(というのも新しい家と妻を少しでもはやく手に入れたかったので)、斧がいきなりすべって、左脚を切り落としてしまったのです。
これは最初、とても不幸なことに思えました。というのも片脚では木こりはあまりつとまりませんから。そこでブリキ職人のところへいって、ブリキで新しい脚をこしらえてもらいました。いったん慣れたら、脚は非常に具合がよい。でも東の邪悪な魔女はそれを見て腹をたてました。というのも、魔女は老婆にわたしがきれいなマンチキン娘とは結婚しないと約束していたからです。また木を切りはじめると、またもや斧がすべって右足を切り落としました。またもやわたしはブリキ職人に頼んで、またもやブリキの脚を作ってもらいました。その後、魔法のかかった斧は腕を一本ずつ切り落としてしまいましたが、わたしはくじけずに、ブリキの腕をつけました。すると邪悪な魔女は、またもや斧をすべらせて、こんどはわたしの頭を切り落としました。これで自分もおしまいかな、と最初は思いましたよ。でも折良くブリキ職人が通りがかって、ブリキで新しい頭を作ってくれたんです。
これで邪悪な魔女を出し抜いてやったと思って、前にもまして仕事に精を出しました。でも、敵がどれほど邪悪か見くびっていましたよ。魔女は、美しいマンチキン娘への愛を消す新しい方法を考え出して、また斧をすべらせました。こんどは胴体が切りさき、からだがまっぷたつになってしまいました。またもやブリキ職人が助けにきてくれて、ブリキの胴体を作って、ブリキの腕や脚や頭を関節でくっつけてくれました。でも無念! もう心がなくなっていたので、マンチキン娘への愛が完全になくなり、結婚なんかどうでもよくなってしまいました。たぶんまだあの老婆といっしょに暮らしながら、わたしが迎えにくるのを待っているでしょうに。
からだはお日様の下で実にピカピカで、わたしはとても誇らしかったし、もう斧がすべっても関係ありません。ブリキは斧で切れませんから。危険は一つだけ――関節がさびることです。でも小屋に油のカンを置いて、必要ならいつでも自分の手入れをしていました。ところが、ある日これを忘れてしまい、夕立につかまって、しまったと思う間もなく関節がさびついて、そのまま森の中に立っていたところへあなたたちがきて助けてくれたわけです。ひどい経験でしたが、その間にいろいろ考えて、なくしたものの中でいちばん大きかったのは、心をなくしたことだなあ、と思ったんですよ。恋をしているときには、この世でいちばんの幸せ者でした。でも、心がない人なんかだれも愛してくれません。だから、オズに心をくれるよう是非ともお願いするんです。もらえたら、あのマンチキン娘のところへいって、結婚するつもりです」
ドロシーもかかしも、ブリキの木こりのお話にとても感心しましたし、これでなぜあんなに心をほしがるのかもわかりました。
「それでも、ぼくは心より脳みそをお願いするな。心があっても、バカはそれをどう使うかわからないだろうから」とかかしが言います。
ブリキの木こりは言い返しました。「わたしは心をとりますね。脳みそでは幸せになれません。この世でいちばん大事なのは幸せなんですから」
ドロシーは何も言いませんでした。というのも、友だち二人のどっちが正しいのかわかりかねたし、それに自分はカンザスのエムおばさんのところに帰りさえすれば、木こりに脳がなくてもかかしに心がなくても、あるいは二人が望み通りのものを手に入れても、あまり関係ないわと思ったからです。
いちばん心配だったのは、パンがほとんどなくなりかけているということでした。トトと自分があと一回ご飯をたべたら、バスケットは空になってしまいます。確かに木こりもかかしも何も食べませんが、ドロシーはブリキやわらではできていないし、食べ物を食べないと生きられません。
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いままでずっと、ドロシーとその仲間たちは深い森の中を歩いていました。道はまだ黄色いれんがが敷かれていましたが、木の枯れ枝や落ち葉でかなりおおわれていて、歩くのもずいぶんと苦労します。
森のこのあたりには鳥がほとんどおりません。鳥はお日様のいっぱい当たる、開けた場所が好きなのです。でもときどき、木の間にかくれている野生の動物がたてる深いうなり声が聞こえてきました。そういう音は、少女の心臓をどきどきさせました。どんな動物がその音をたてているかわからなかったからです。でもトトにはわかりましたので、ドロシーのとなりにぴったりくっついて、吠え返したりもしませんでした。
「森から出るまでにあとどのくらい?」と子供はブリキの木こりにたずねます。
「わかりません」というのが答えでした。「わたしはエメラルドの都に行ったことがありませんから。でもお父さんが昔、わたしが子供の頃にでかけて、危険な国を通り抜ける長旅だったと言っていましたよ。でもオズの住む都の近くになるときれいだとのことです。でも、油のカンがある限りわたしはこわいものなしですし、だれもかかしにはけがをさせられません。あなたはおでこによい魔女のキスのしるしをつけているので、害から守ってもらえますよ」
「でもトトは? トトは何が守ってくれるの?」と少女は心配そうに言いました。
「トトが危険にあったら、わたしたちが守ってあげないといけませんね」とブリキの木こりが答えました。
そう言ったそのとき、森からおそろしい吠え声が聞こえて、次の瞬間に大きなライオンが道に飛び出してきました。前足の一撃で、かかしはクルクルとふっとんで道の端に転がりました。それから鋭い爪をブリキの木こりに向かって振るいました。でもブリキには何の跡もつかず、木こりが道に倒れて動かなくなっただけだったので、ライオンはおどろきました。
小さなトトは、いまや直面すべき敵ができたので、吠えながらライオンにむかっていきました。そして大きな獣が口をあけて犬にかみつこうとしたとき、ドロシーはトトが殺されるのではないかとおびえて、危険もかえりみずに進み出ると、ライオンの鼻づらを思いっきりひっぱたいてこう叫びました。
「トトをかんだら承知しないから! 恥を知りなさい、あなたみたいな大きな獣が、小さいあわれな犬をかむなんて!」
「かんでないよう」とライオンは、ドロシーにぶたれた鼻を前足でさすりました。
「でもかもうとしたでしょう。からだは大きいくせに、臆病ものね」とドロシーは言い返します。
「やっぱりそうか」とライオンは、恥ずかしそうに頭をたれました。「やっぱりね。でもどうしようもないでしょうに」
「そんなの知らないわよ、まったく。あんなわらをつめた、あわれなかかしみたいな人を叩くなんて!」
「わらがつまってるの?」とライオンはおどろいて言いながら、ドロシーがかかしを助け起こして立たせる、ポンポンと叩いて形を整えるのを見つめました。
「決まってるでしょう」ドロシーはまだ怒っています。
「それであんなにかんたんに倒れたのか。あんなにコロコロころがっていったんで驚いたよ。もう一人もわら入りかい?」とライオン。
「いいえ。ブリキ製よ」とドロシーは木こりも助け起こします。
「それで爪がなまくらになりかけたのか。爪がブリキをひっかいたときには、背筋がゾーッとしたよ。それとそのかわいがってる小さな動物は何?」
「あたしの犬のトトよ」とドロシー。
「それもブリキかわらなの?」とライオンがききます。
「いいえ、どっちでもないわ。トトは……えーと……肉の犬よ」と少女は言いました。
「ふーん、おもしろい動物だね、それにこうしてみるとえらく小さいや。わたしみたいな臆病者でもなければ、こんな小さな動物をかもうとはしないでしょう」とライオンは悲しそうに続けます。
「どうしてそんなに臆病なの?」とドロシーは、不思議そうに巨大な獣を見つめました。というのも子馬くらいの大きさがある動物だったからです。
ライオンは答えました。「それはわからない。生まれつきそうだったんでしょう。森の他の動物たちは、当然わたしが勇敢なものと思ってるんだよ、というのもライオンはどこでも百獣の王だと思われてるからね。思いっきり吠えれば、他の生き物はみんなこわがって逃げ出すことがわかった。人間に会うと、いつもすごく怖くなるんだが、吠えるだけでみんな全速力で逃げ出す。ゾウやトラやクマがわたしに刃向かおうとしたら、わたしも逃げ出すだろう――すごく臆病なんだよ。でもみんな、わたしが吠えるのを聞いたとたん、逃げだそうとするし、わたしももちろんそれを見逃すんだ」
「でもそんなばかな。百獣の王が臆病だなんて」とかかし。
「そうなんだよ」とライオンは答えて、しっぽの先で目から涙をぬぐいました。「それがわたしの大いなる悲劇で、おかげでとても不幸せな一生なんだよ。でも危険に出会うたびに、胸がどきどきしてしまうんだ」
「心臓の病気かも知れませんよ」とブリキの木こり。
「そうかもしれない」とライオン。
「でももしそうなら、ありがたく思わなくっちゃ。心があることが証明されたんですからね。わたしはといえば、心がないから、心臓病にもなれないんですよ」とブリキの木こりは続けました。
「うーむ。心がなければ臆病者にならずにすむかもしれない」とライオンは考えこみます。
「脳みそは持ってるの?」とかかし。
「たぶんあるだろう。調べたことはない」とライオン。
「ぼくはえらいオズのところへいって、脳みそを少しくれるよう頼むんだ。ぼくの頭はわらがつまってるから」とかかしは言いました。
「そしてわたしは心をくれるよう頼むんだ」と木こり。
「そしてあたしは、トトといっしょにカンザスへ返してくれるよう頼むの」とドロシーがつけ加えます。
「オズはわたしに勇気をくれると思うかい?」と臆病ライオンはたずねました。
「ぼくに脳みそをくれるくらい楽にね」とかかし。
「あるいはわたしに心をくれるくらい楽に」とブリキの木こり。
「それかあたしをカンザスに送り返すくらい楽に」とドロシー。
「それなら、もしよければ、いっしょに行かせてもらおう」とライオン。「多少の勇気がないと人生が耐え難いんだよ」
「大歓迎よ、あなたがいれば、ほかの獣がよってこないもの。あなたを見てそんなにすぐに怯えるなら、他の動物たちのほうがずっと臆病なんじゃないかと思うんだけど」とドロシー。
「いやその通りなんだよ。でもそれでわたしが勇敢になるわけじゃないし、自分が臆病だと知っている限りは不幸なんだ」とライオン。
そこで一行は旅に出発いたしまして、ライオンは堂々たる歩みでドロシーの横を歩きました。トトはこの新しい仲間を最初は認めておりませんでした。というのも、ライオンの大きなあごでかみくだかれそうになったのを忘れてはいなかったからです。でもやがてもっとうちとけるようになり、すぐにトトと臆病ライオンはよい友だちになりました。
その日はもうそれ以上は、一行の平穏を乱すような冒険はありませんでした。まあ一度だけ、ブリキの木こりが道を這っているカナブンをふんづけて、かわいそうな虫を殺してしまったことはありました。おかげでブリキの木こりはとても悲しくなりました。いつも生き物を傷つけないように注意していたからです。だから歩きながら、悲しみと後悔の涙を流しました。涙はゆっくりと顔をつたい、あごのちょうつがいにかかり、さびさせてしまいました。やがてドロシーが質問をしたときにも、あごがしっかりとさびついてしまって口が開けません。木こりはとてもこわくなって、ドロシーになんとかしてくれと身振りで伝えましたが、わかってもらえませんでした。ライオンもまた、どうしたのか知りたがりました。でもかかしが油のカンをドロシーのバスケットから取り出して、木こりのアゴに油を差し、まもなく木こりはまたしゃべれるようになりました。
「これでいい勉強になりましたよ。ちゃんと足下に注意しないといけませんね。今度ムシやカナブンを殺したら、絶対にまた泣いてしまうし、泣くとアゴがさびて口がきけなくなってしまいます」と木こりは言いました。
それからというもの、木こりはとても気をつけて、道をしっかり見ながら歩きまして、小さなアリがいっしょうけんめい歩いているときにもちゃんと上を乗りこえて、傷つけないようにしました。ブリキの木こりは自分に心がないのをよく知っていましたから、他のものに残酷なことをしたり、不親切なことをしたりしないように気をくばっていたのです。
木こりはこう言うのでした。「きみたち心ある人々は、導いてくれるものがあるんだから、まちがったことなんかすることもないでしょう。でもわたしは心がないのだから、とても気をつけないと。オズが心をくれたら、こんなに気をつけなくてもいいはずですが」
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その夜は、森の大きな木の下で野宿をするしかありませんでした。近くには家がなかったのです。その木は夜露から守ってくれるすぐれた分厚い覆いとなりましたし、ブリキの木こりは斧でたくさん薪を切り倒したので、ドロシーはすばらしいたき火をたいて暖まり、さびしさもまぎれました。トトといっしょに最後のパンを食べてしまい、朝ご飯はどうしたらいいのかわかりませんでした。
「なんだったら、森にいってシカを殺してきてあげよう。火で焼くといい。きみの舌はずいぶん奇妙だから、料理した食べ物のほうがいいんだろうからね。そうすればとてもおいしい朝ご飯になる」
「やめてください! お願いですから」とブリキの木こりが必死で頼みました。「あなたがかわいそうなシカを殺したら、わたしはまちがいなく泣いてしまうし、そうしたらまたアゴがさびてしまう」
でもライオンは森の中にでかけて自分の晩ご飯を見つけ、それがなんだかだれにもわかりませんでした。というのも、ライオンが話さなかったからです。そしてかかしはナッツでいっぱいの木を見つけて、それをドロシーのバスケットに詰めましたから、ドロシーは当分おなかがすかなくてすむようになりました。ドロシーは、かかしがとても親切でよく気がつくと思いましたが、かわいそうなかかしがナッツを拾い上げる様子がぶきっちょだったので、心底笑ってしまいました。詰め物の手はとても不器用で、ナッツはあまりに小さくて、バスケットに入れるのと同じくらいこぼしています。でもかかしは、バスケットをいっぱいにするのに時間がかかっても気にしませんでした。そのほうがたき火からはなれていられるからです。火の粉がわらにかかったら、自分が燃えてしまうのでこわかったのです。だから炎から十分にはなれて、近くにきたのはドロシーが横になって寝たときに、枯葉でふとんをかけてあげたときだけでした。おかげでドロシーはとてもぬくぬくとして、朝までぐっすり眠りました。
お日様がさすと、ドロシーは顔を小さなせせらぎで洗い、間もなく一行はエメラルドの都に出発しました。
この日は一同にとってなかなか忙しい一日となりました。ほんの一時間ほど歩いたどころで、道を大きな地割れが横切っていて、左右見渡す限り森をまっぷたつに分けています。とても幅の広い地割れで、みんながおそるおそるふちに近寄ってのぞき込むと、とても深いこともわかりましたし、底には大きなギザギザの岩がたくさんありました。しかも裂け目は急になっていて、だれも斜面をつたって降りることもできそうにありません。これで旅もおしまいかと思えたほどです。
「どうしましょう」とドロシーはがっかりして言いました。
「わたしにはなにも思いつかない」とブリキの木こりは申しますし、ライオンももっさりしたたてがみを振って重々しい顔をしただけです。でもかかしはこう言いました。
「飛ぶのは絶対に無理だね、まちがいない。このおおきな割れ目をつたって降りるのも無理だ。だから、とびこえられなかったら、ここで旅はおしまいだね」
「とびこえられそうだなあ」と臆病ライオンは、頭の中で注意深くはばをはかってみてから言いました。
「じゃあなんとかなるよ。きみならぼくたちみんな、一人ずつ背中にのせてとびこえられるもの」とかかし。
「まあやってみよう」とライオンは言いました。「だれから行く?」
「ぼくが行こう」とかかし。「万が一やってみてとびこえられなかったら、ドロシーなら死んじゃうだろうし、ブリキの木こりは下の岩でベコベコにへこんじゃうだろう。でもぼくがきみの背中にいても、特にまずいことはない。ぼくは落ちてもけがをしないからね」
「このわたしも、実は落ちるのがものすごくこわいんだ」と臆病ライオン。「でもためしてみるしかないようだね。では背中に乗ってくれ。やってみようじゃないか」
かかしがライオンの背中にすわると、巨大な獣は裂け目のふちに歩みよって、しゃがみこみました。
「助走をつけて飛んだらどうだい?」とかかしがききました。
「ライオンはそういうふうには飛ばないんだよ」とライオンは答えました。そしてひとっ飛びで宙を横切り、ぶじに向こう側に着地しました。みんな、ライオンが楽々と飛べたので大喜びで、かかしが背中からおりるとライオンはまたこちらへとびこえてきました。
次は自分だと思ったので、ドロシーはトトをうでにかかえてライオンの背中によじのぼり、片手でしっかりとたてがみにつかまりました。次の瞬間、空を飛んでいるような感じがしました。そして、考える間もなく、ぶじに向こう側についていました。ライオンは三度目に戻り、ブリキの木こりをつれて戻ってきました。そしてみんなしばらくそのまますわって、ライオンにきゅうけいしてもらいました。何度も大きなジャンプをして、ライオンは息を切らしていたからで、まるで走りすぎた犬のようにぜいぜい言っていました。
割れ目のこちら側では森がずっと濃くて、暗く陰気な感じがしました。ライオンが元気をとりもどすと、一同は黄色いれんがの道を先に進みましたが、みんな内心ではこのままいつまでたっても森が終わらずに、明るいお日様にも会えないんじゃないかと心配していました。さらに不安に追い打ちをかけるように、森の奥からはやがて奇妙な音が聞こえてきて、ライオンは国のこのあたりにはカリダが住んでいるんだ、と耳打ちしたのです。
「カリダって?」と少女。
ライオンは答えます。「クマみたいなからだとトラみたいな頭をした怪物みたいな獣なんだよ。爪も実に長くて鋭いから、わたしがトトを殺すのと同じくらい簡単に、このわたしをまっぷたつにしてしまえる。わたしはカリダがすごくこわいんだ」
「それは無理もないわねえ。ずいぶんおそろしげな獣ですもんねえ」とドロシーは答えました。
ライオンが返事をしようとしたとき、またもや別の地割れにさしかかりました。こんどのはすごく広くて深く、ライオンも一目でとびこえられないのがわかりました。
そこでどうしようかとすわって思案いたしました。そしてしばらく真剣に考えこんだあげく、かかしがいいました。
「割れ目にずいぶん近いところに、大きな木があるじゃないか。ブリキの木こりがこれを切り倒して、向こう側にまたがるようにすれば、楽々と歩いてわたれるよ」
「それはとびっきりの考えだ。その頭の中にはわらじゃなくて脳みそが入ってるんじゃないかと思うほどだよ」とライオン。
木こりはすぐに作業にかかり、斧も実に鋭かったので、木はほとんど切れるところまできました。そしてライオンが強い前足に全力をかけて押したので、大木はゆっくりとかたむいて、ドシーンと音をたてて割れ目にまたがるように倒れ、向こう側にてっぺんの枝だがとどいています。
この変わった橋をわたりはじめたところで、鋭いうなり声がしたので、みんな顔を上げました。するとおそろしいことに、クマの胴体とトラの頭をした巨大な動物が二頭、こちらへ走ってくるではありませんか。
「あれがカリダだ!」と臆病ライオンはふるえだしました。
「急いで! はやく渡ろう!」とかかし。
そこでドロシーは、トトをしっかりうでに抱いてわたりました。続いて木こり、それからかかしです。ライオンは、こわがってはいましたが、ふりむいてカリダと対決し、ものすごく大きくておっかない吠え声をたてましたので、ドロシーは悲鳴をあげて、かかしも背中からひっくりかえってしまいましたが、おそろしい獣たちもその場で立ち止まり、びっくりしてライオンを見ています。
でも、自分たちのほうがライオンより大きいのを見たのと、自分たちは二頭いてライオンは一頭だけなのに気がついたのとで、カリダたちはまた向かってきます。ライオンはわたり終えて、カリダたちがどうするかを見ました。一瞬たりともためらうことなく、おそろしい動物たちも木をわたりはじめ、ライオンはドロシーにこう言いました。
「もうおしまいだ、やつらはまちがなくあの鋭いツメで、わたしたちを細切れに引き裂いてしまうだろう。でもわたしのうしろについていなさい。命ある限り戦ってみせよう」
「ちょっと待った!」とかかしがいいます。どうするのがいちばんいいかを考えていたかかしは、割れ目にかかった木のこちら側を切ってくれと木こりに頼みました。ブリキの木こりはすぐに斧をふるいはじめ、そしてカリダ二頭がわたり終える直前に、木は大音響とともに深みに落ち込んで、いっしょに醜いうなるケダモノたちも落下していきました。どちらも底にある鋭い岩でこなごなです。
臆病ライオンは、ほっとしてすごく長いため息をつきました。「いやはや、これで寿命が少しのびたよ、ありがたい。たぶん生きられなくなったらとてもいやな気分だろうからね。あの生き物が実にこわかったから、心臓がまだどきどきしているよ」
ブリキの木こりが言いました。「いいなあ。わたしにもどきどきする心があればいいのに」
この冒険のおかげで、一行は前にもまして森をぬけだしたいと思いましたので、とても急ぎ足で歩き、ドロシーはくたびれてしまってライオンの背中に乗らなくてはなりませんでした。進むにつれて木がだんだんまばらになってきて、みんな大喜びでした。そして午後になると、とつぜん広い川にやってきました。目の前に、勢いよく流れています。水の向こう側には黄色いれんがの道がのび、美しい国へと続いています。そこでは緑の草原に明るい花が散り、道はどこもおいしそうな果物がいっぱいなった木の横を通っているのです。そんなすばらしい国が目の前にあるので、みんなとてもうれしく思いました。
「川はどうやってわたりましょう?」とドロシー。
かかしが答えます。「それはかんたん。ブリキの木こりがいかだを作ってくれれば、みんなそれに乗って向こう側につけるよ」
そこで木こりは斧を取り出して、いかだ用に小さな木を切り倒しました。木こりが精を出す間、かかしは川岸に立派な果物のたくさんなった木をみつけました。ドロシーは、一日中ナッツしか食べていなかったので大喜びで、熟した果物を心ゆくまで食べました。
でも、ブリキの木こりほど仕事好きで疲れをしらなくても、いかだづくりには時間がかかります。夜になってもまだ完成していませんでしたので。みんな木の下の心地よい場所をみつけて、朝までぐっすり眠りました。そしてドロシーはエメラルドの都と善良な魔法使いオズのことを夢に見ました。オズはまもなくドロシーを家に帰してくれることでしょう。
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われらが旅人の群れは、すっかり元気になって希望にあふれ、ドロシーは川辺の木の桃やすももでお姫様のような朝ご飯を食べました。うしろにはぶじに通り抜けてきた暗い森がありました。そこではいろいろくじけそうなこともありました。でも目の前には美しい日差しに照らされた国があって、それがエメラルドの都へとみんなを招いているようです。
確かに、いまは広い川がその美しい国への道をふさいでいます。でもいかだは完成しかけていました。ブリキの木こりが丸太を何本か木って、木のピンでそれをくっつけたので、出発の準備ができました。ドロシーはいかだの真ん中にすわって、トトをうでに抱きました。臆病ライオンがいかだに乗ると、ひどく傾きました。ライオンはとても大きくて重かったからです。でもかかしとブリキの木こりが反対側に立って安定させました。そして長いさおを持って、いかだを押すことになっていました。
最初はなかなかうまく行きました。でも川の真ん中にさしかかると、急流がいかだを川下に押し流し、黄色いれんがの道からはどんどん離れてしまいます。そして水もどんどん深くなって、長いさおが川底に届かなくなってしまいました。
「これは困った。岸につけないと、西の邪悪な魔女の国に流されてしまう。そうしたら魔法にかけられて奴隷にされてしまうぞ」とブリキの木こり。
「そしたらぼくは脳みそがもらえない」とかかし。
「わたしは勇気がもらえない」と臆病ライオン。
「そしてわたしは心がもらえない」とブリキの木こり。
「そしてあたしはカンザスに帰れない」とドロシー。
「できることなら何としてもエメラルドの都にたどりつかないと」とかかしは続けて、長いさおを思いっきり突き立てると、川底のドロにしっかりはまってしまって、抜くことも手を離すこともできないうちに、いかだが流されてしまったので、あわれなかかしは川の真ん中で、さおにしがみついたままとなってしまいました。
「さよなら!」とかかしはみんなに向かって叫び、みんなとしてもかかしを残していくのは大変に残念なことでした。ブリキの木こりは泣き出したほどですが、ありがたいことに自分がさびるかもしれないと思い出して、涙をドロシーのエプロンでぬぐいました。
もちろんこれはかかしにとってよくないことでした。
「これじゃあドロシーに会ったときよりもひどいぞ」とかかしは思いました。「あの時は、トウモロコシ畑の真ん中のさおにつきささっていたけれど、自分がカラスをおどかしているようなつもりには少なくともなれた。でも川の真ん中のさおにつきささったかかしなんて、絶対に何の役にもたたない。これじゃあ絶対に脳みそなんか手に入らないぞ!」
いかだは川下に流れ、あわれなかかしはずっとうしろに取り残されてしまいました。するとライオンが言います。
「なんとかしないと助からないぞ。わたしなら岸に向かって泳げるし、きみたちがしっぽの先につかまっていられれば、いかだを引っ張っていけるだろう」
そしてライオンは水に飛び込み、ブリキの木こりはしっかりとそのしっぽをつかんだので、ライオンは全力で岸めがけて泳ぎだしました。大きなライオンにとっても大変な仕事でした。でもだんだん一行は流れからぬけだして、そこでドロシーはブリキの木こりの長いさおを手にしていかだを岸に押しやる手伝いをしました。
やっと岸について、きれいな緑の草に足を下ろすと、みんなくたくたになっていましたし、またエメラルドの都に続く黄色いれんがの道からずっと遠くに流されてしまったのもわかっていました。
「さてどうしよう?」とブリキの木こりは、草に横たわってお日様にあたってからだを乾かそうとしたライオンにたずねました。
「まずはなんとかして道に戻らないと」とドロシー。
「いちばんいいのは川岸に沿って歩いて、道に戻ることだ」とライオン。
そこで元気が戻ると、ドロシーはバスケットを手にとって、草のはえた岸辺を歩いて川に流される前の道に戻ろうとしました。美しい国で、花や果樹や日差しはたっぷりあってとても元気が出たので、あわれなかかしのことさえ心配でなかったら、みんなとても幸せになれたでしょう。
みんな全速力で歩き、ドロシーはきれいな花をつむのに一度立ち止まっただけでした。しばらくすると、ブリキの木こりが叫びました。
「見ろ!」
そしてみんなが川を見ると、そこには水の真ん中でさおにつかまっているかかしがいました。とても寂しそうでかなしげです。
「どうすれば助けてあげられるかしら」とドロシー。
ライオンと木こりは、どちらも首を振りました。助ける方法がわからなかったからです。そこでみんな川岸にすわって、切ない思いでかかしを見つめていましたが、そこへコウノトリが一同を見て、水辺で休みに足を止めました。
「あなたたちはだれ、どこへ行くの?」とコウノトリがたずねます。
少女は答えました。「あたしはドロシーです。こちらはお友だちのブリキの木こりと臆病ライオン。みんなでエメラルドの都に行くところなんです」
「この道じゃないわよ」とコウノトリは、長い首をねじって鋭い目つきでこの風変わりな一行を眺めました。
「知ってます。でも、かかしさんが置き去りになったので、どうすればとりもどせるかを考えていたところなんです」
「その人はどこにいるの?」とコウノトリ。
「そこの川の中です」と少女は答えます。
「あまり大きかったり重かったりしなければ、つれてきてあげましょうか」とコウノトリ。
ドロシーは熱心にいいました。「ぜんぜん重くないんです。だってわらが詰まってるんですもの。連れ戻してくださったら、もういつまでも心から感謝します」
「まあやってはみますけどね。でも運ぶのに重すぎるのがわかったら、また川に落とすしかありませんからね」とコウノトリ。
そこで大きな鳥は空に舞い上がり、水上を飛んで、かかしがさおにつかまっているところまでやってきました。そしてコウノトリはその大きなかぎ爪で、かかしの腕をつかまえると宙に運び上げて、ドロシーやライオンやブリキの木こりがすわっている岸辺に運んできてくれました。
かかしはまた友だちと一緒になれて、とにかく嬉しかったので、みんなを抱きしめました。ライオンとトトすら抱きしめたほどです。そして歩きながら「トル・デ・リデ・オ!」と一歩ごとに歌うほど嬉しかったのでした。
「もうずっと川の中にいるのかと思ったよ。でも親切なコウノトリが助けてくれた。もし脳みそをもらえたら、コウノトリをまた見つけて、お返しに何か親切なことをするんだ」
「そんなのいいですよ」と一行と並んで飛んでいたコウノトリが言います。「困っている人を助けるのは好きですからね。でもそろそろ行きませんと。赤ん坊たちが巣でわたしを待っていますからね。エメラルドの都が見つかって、オズが助けてくれるとよいですね」
「ありがとうございます」とドロシーが答えると、親切なコウノトリは空にまいあがってじきに見えなくなりました。
みんなはそのまま歩き続け、色のきれいな鳥たちの声に耳を傾けたり、どんどん密になってほとんど一面に咲き乱れている美しい花をながめたりしました。大きな黄色や白や青や紫の花があって、その横には深紅のケシの大きな群れがあり、それがあまりにまばゆくて、ドロシーは目が痛くなったほどです。
「きれいだと思わない?」と少女は、花の強い香りを吸い込みながらたずねました。
「そのようだね」とかかしは答えました。「脳みそをもらったら、もっと気に入ると思う」
「心さえあれば、大好きになると思う」とブリキの木こりがつけ加えます。
「わたしは前から花が好きだ。か弱くて寄る辺ない感じで。でも森にはこれほどまばゆい花はない」とライオン。
だんだん、大きな深紅のケシの束が増えてきて、その他の花はどんどん減っていき、やがて一行は大きなケシの花畑の真ん中におりました。さて、こうした花がいっしょにこれだけあると、その香りがあまりに強すぎて、吸い込んだらすぐに寝てしまい、寝た人をそこから運び去らないと、いつまでも目を覚まさないということはよく知られています。でもドロシーは知りませんでしたし、またまわり一面にある深紅の花から逃げるのは無理でした。だからやがてまぶたが重くなり、すわって休んで眠らないといけない気がしました。
でもブリキの木こりが、そうはさせまいとがんばります。
「急いで日暮れまでに黄色いれんがの道に戻らないと」と言って、かかしもそれに賛成しました。そこでみんな歩き続けましたが、もうドロシーは立っていられなくなりました。心ならずも目が閉じ、自分がどこにいるかも忘れて、ケシの中に倒れて眠り込んでしまいました。
「どうしよう?」とブリキの木こり。
「放っておいたら死んでしまう」とライオン。「花の香りはわれわれみんなを殺そうとしている。このわたしですら、ほとんど目を開けていられないほどだし、犬はとっくに寝ている」
その通りでした。トトは女主人の横で寝てしまっていました。でもかかしとブリキの木こりは、肉でできていなかったので、花の香りに悩むこともありませんでした。
「走って、この恐ろしい花畑から急いで出よう。少女は運べるけれど、君が眠ってしまったら、運ぶには大きすぎる」とかかしはライオンに言いました。
そこでライオンは力をふりしぼり、思いっきりはやく駆け出しました。間もなく見えなくなってしまいます。
「手で椅子をつくってドロシーを運ぼう」とかかしはいいました。二人はトトを持ち上げてドロシーのひざにのせ、手を座面に、うでを椅子のうでにして、花の中を眠る少女を運んでいきました。
二人は歩き続け、みんなを取り巻くおそろしい花のじゅうたんはいつまで立っても終わらないかのようでした。川が曲がっているところを過ぎると、やっと友だちのライオンのところにきましたが、ライオンはケシの中でぐっすり眠っています。花は巨大な獣にも強すぎて、ライオンはついにあきらめてしまい、ケシ畑の終わりまであと少しというところで眠ってしまったのです。ケシ畑の向こうには、すてきな草が緑の野原となって広がっていました。
「ライオンにはどうしてあげることもできない」とブリキの木こりは悲しそうに言いました。「持ち上げるには重すぎる。ここでいつまでも眠り続けるまま残すしかない。ひょっとすると、やっと勇気を見つけた夢でも見るかもしれない」
「残念だよ。ライオンは、こんなに臆病なくせにとてもよい仲間だった。でも先へいかないと」
二人は眠る少女を川辺のきれいな場所につれていきました。もうケシ畑からは十分遠くて、花の毒をそれ以上すいこむ心配のないところです。やわらかい草の上に彼女をそっと横にして、新鮮なそよ風で目が覚めるのを待ったのでした。
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「そろそろ黄色いれんがの道からさほど遠くはないはずだよ」と少女の横のかかしは言いました。「だって川に流されたのと同じくらいの距離を戻ってきたんだから」
ブリキの木こりが答えようとしたとき、低いうなり声が聞こえたので、頭をめぐらすと(ちなみにちょうつがい式で実に見事に動きました)、奇妙な獣が草の上をぴょんぴょんと駆けてくるのが見えました。よく見ると大きな黄色いヤマネコです。何かを追いかけているようだな、と木こりは思いました。耳が頭にくっつくように寝ていて、口があんぐりと開き、みにくい歯が二列のぞいていましたし、赤い目が火の玉のようにかがやいていたからです。それが近づいてくると、ブリキの木こりはその獣の前を走っているのが小さな灰色の野ネズミだというのを見て取りました。ブリキの木こりには心はありませんでしたが、ヤマネコがこんなきれいで無害な生き物を殺そうとするのはまちがっているということはわかりました。
そこで木こりは斧をふりあげ、ヤマネコが横を駆けぬけるときにサッとふりおろすと、獣の頭は胴体からきれいに切り離されて、ヤマネコは二つにわかれて足下に転がりました。
野ネズミは、敵から解放されたので立ち止まりました。そしてゆっくりと木こりに近づくと、小さなキイキイ声でこう申しました。
「ああ、ありがとうございます! 命を助けてくださって本当にありがとうございます!」
木こりは答えました。「なんのなんの、礼にはおよびません。ごぞんじのとおりわたしには心がありませんので、友人を必要としそうな方はすべて助けるように気を使っているのですよ。それがただのネズミであってもね」
「ただのネズミ、ですって!」と小さな動物は憤然と叫びました。「わたしは女王なんですよ――すべての野ネズミの女王なんですからね!」
「おやそうでしたか」と木こりはおじぎをしました。
「ですから、わたしの命を助けてくださったあなたは、勇敢だっただけでなく、重要な役割を果たしたことにもなるのです」と女王はつけ加えました。
その瞬間に、何匹かのネズミがその小さな足の許す限りの速さで駆け寄ってきまして、女王を見てこう叫びました。
「ああ女王陛下、もう殺されておしまいになったかと思っておりました! あの大きなヤマネコからいかにして逃れられたのですか?」そしてみんな、小さな女王に向かって実に深々とおじぎをしたので、ほとんど逆立ちせんばかりでした。
「こちらの奇妙なブリキの方が、ヤマネコを殺してわたしの命を救ってくださったのですよ。ですから今後は、お前たちみんなこの方にお仕えして、どんな願いでもかなえてさしあげるように」と女王様は申します。
「御意!」とネズミたちはみんな、キイキイ声をあわせました。そしていっせいに四方八方に逃げ散りました。というのもそこでトトが目をさまして、まわりにネズミがたくさんいるのを見ると、大喜びで吠えて群れの真ん中にとびこんだからです。トトはカンザスにいるときはネズミを追いかけるのが大好きで、それが何の問題もないことだと思っていました。
でもブリキの木こりはイヌを捕まえるとしっかりと抱えて、ネズミたちに呼びかけました。「戻っておいで! 戻っておいで! トトは悪さはしないから」
これを聞いてネズミの女王は草むらから頭をつきだし、こわごわとたずねました。
「本当に噛んだりしませんか?」
「このわたしが噛ませませんよ。だからこわがらないで」と木こり。
一匹、また一匹と、ネズミたちはおっかなびっくり戻ってきまして、トトはもう吠えようとはしませんでした。でも木こりのうでからは逃れようとしまして、ブリキ製だと知らなければかみついていたことでしょう。とうとう、いちばん大きなネズミの一匹が尋ねました。
「女王さまの命を助けて頂いたご恩に報いるため、何かできることはありますでしょうか?」
「何も思いつかないなあ」と木こりはいいましたが、かかしは、考えようとしていたけれど頭にわらが詰まっているので考えられなかったのに、すぐにこう言いました。
「いやありますあります。ケシ畑で眠っている、友だちの臆病ライオンを助けてくれませんか」
「ライオンですって! わたしたちみんな食べられてしまいますよ!」と小さな女王が叫びます。
「いやいや、このライオンは臆病者ですから」とかかしは請け合いました。
「本当に?」とネズミ。
「だって自分でそう言ってますから。それにぼくたちの友だちであればだれも傷つけたりしません。だからこのライオン救助を手伝ってくれたら、みなさんに手荒な真似はしないと約束しますよ」とかかしは答えました。
「そういうことでしたら、あなたを信用しましょう。でもどうすればよいでしょう?」と女王さま。
「あなたを女王さまとあがめて、命令にしたがうネズミはたくさんいるんですか?」
「ええ、そりゃもう。何千匹も」と女王さま。
「それなら、すぐにここにくるよう、みんなにおふれを出してください。そしてみんな、長いひもを持ってくるように言ってください」
女王はおつきのネズミたちに向かって、すぐに臣民をみんな集めてくるように告げました。命令をきくがはやいか、みんなは一目散に四方へ散っていきました。
「さて、きみはあの川辺の森にいって、ライオンを運ぶ荷車を作ってくれよ」とかかしはブリキの木こりに言いました。
そこで木こりはすぐに森に向かって仕事にかかりました。そして大枝から葉っぱや小枝を切り落とし、それを並べてすぐに荷台を作ります。それらを木のくいでつなぎあわせると、大きな木の幹を短くきって、車輪を四つ作りました。木こりはこの仕事をとてもすばやく上手にやったので、ネズミたちが集まりはじめた頃には、荷車はもうすっかりできあがっていました。
ネズミたちは四方八方からやってきて、何千匹もおりました。大きなネズミ、小さなネズミ、中くらいのネズミ。そしてそのそれぞれが、ひもをくわえています。ドロシーが長い眠りからさめて目を開けたのはちょうどこの頃でした。自分が草の上に横たわっていて、何千匹ものネズミがまわりを囲んでびくびくとこちらを見ているのを見て、ドロシーはとてもびっくりしました。でもかかしがすべてを説明しまして、えらい小さなネズミのほうを向くと、こう言いました。
「お許しがいただければご紹介しましょう、こちらが女王陛下でございます」
ドロシーは深々とおじぎをし、女王さまも会釈をしまして、その後ドロシーととても仲良しになりました。
かかしと木こりは、ネズミたちが持ってきたひもを使って、ネズミを荷車に結びつけはじめました。ひもの片方をそれぞれのネズミの首にゆわえて、もう片方を荷車に結びます。もちろん荷車は、ひっぱるネズミのだれよりも千倍も大きかったのですが、ネズミがみんなで引っ張ると、楽々と動きました。かかしとブリキの木こりが乗っかっても大丈夫なほどで、一行はこの奇妙な小さい馬たちに惹かれて、ライオンが眠る場所に引かれていったのでした。
ライオンは重かったのでかなり苦労しましたが、なんとか荷台に載せました。そして女王さまは、急いでみんなに出発するように命じました。というのもケシ畑にあまり長居したら、ネズミたちも眠ってしまうのがこわかったからです。
最初、この小さな生き物たちは、これだけ数がいても、重たい荷物を積んだ荷車をほとんど揺らすことさえできませんでした。でも木こりとかかしが後ろから押したので、なんとかうまくいきました。やがて一同はライオンを、ケシ畑から緑の野原へと運び出し、花の有毒な香りではなく、甘くさわやかな空気が呼吸できるようにしてあげたのでした。
ドロシーが出迎え、仲間を死から救ってくれたことについて、暖かくお礼をいいました。ライオンがとても好きになっていたので、助かったことをとても嬉しく思ったのです。
それからネズミたちは荷車からほどいてもらって、草の中を自分たちの家へとカサコソと帰っていきました。ネズミの女王さまは最後まで残っていました。
「こんどまたお役にたてることがあれば、野原に出てきて呼んでください。聞きつけて、お手伝いに参りますよ。ごきげんよう!」
「さよなら!」とみんな答え、女王様は駆け去っていきまして、ドロシーはトトをしっかりと抱きしめて、イヌが女王さまの後をおいかけてこわがらせたりしないようにしました。
それからみんなは、ライオンが目を覚ますまでその横にすわっていました。そしてかかしはドロシーに近くの木から果物をもってきて、ドロシーはそれを晩ごはんにしたのでした。
臆病ライオンが目をさますまでにはしばらくかかりました。というのも、ケシの中にかなりいて、そのおそろしいにおいを吸い込んでいたからです。でもやっと目を開けて台車からころげおちると、自分がまだ生きているのを知ってとても喜びました。
「なるべく早く走ったんだけれどね」とライオンはすわってあくびをしました。「でも花が強すぎた。どうやってわたしを連れ出したんだい?」
そこでみんなは野ネズミの話をしまして、野ネズミたちが親切にもライオンを死から救ってくれたのだと教えました。すると臆病ライオンは笑って言いました。
「前から自分が大きくておそろしいと思っていたもんだが。でも花のような小さなものがわたしを殺しかけて、ネズミのような小さな動物が命を助けてくれる。なんとも不思議なことだ! でも同志のみんな、これからどうしよう?」
「旅を続けてまた黄色いれんがの道を見つけないと。そうすればエメラルドの都への旅を続けられるわ」とドロシー。
そこで、ライオンもすっかり元気を取り戻し、気分もよくなったので、またもや旅に出発し、柔らかく新鮮な草の上を楽しんで歩いていきました。そしてほどなく黄色いれんがの道にたどりつき、えらいオズの暮らすエメラルドの都に向かって進みはじめたのです。
いまや道は平らできれいに舗装されていましたし、まわりの国は美しいものでした。だから旅人たちは、森を遠く後にできて大喜びで、いっしょにその陰気な陰で出くわした多くの危険とも喜んでお別れしたのでした。ふたたび、道の脇には柵があるのが見えました。でもこれは緑色に塗られていて、明らかにお百姓さんが住んでいる小さな家に通りかかりましたが、これも緑色です。午後の間にそうした家を何軒か通り過ぎましたし、ときには人々が戸口まで出てきて、なにかききたそうにこちらを見ています。でも大きなライオンがいるせいで、だれも近寄りませんし話しかけてもきません。みんなライオンがとてもこわかったのです。人々はみんな美しいエメラルドグリーンの服をきていて、マンチキンたちと同じようなトンガリ帽子をかぶっていました。
「ここがオズの国にちがいないわ。まちがいなくエメラルドの都にも近づいているはずよ」とドロシー。
かかしが答えました。「そうだね。ここでは何でも緑なんだね。マンチキンたちの国では、青がお気に入りの色だったけれど。でもここの人はマンチキンたちほどは人なつっこくないよだし、今晩泊まる場所も見つけられそうにないよ」
「果物以外に何か食べたいわ。トトも腹ぺこのはずだし。次の家に寄って話をしてみましょうよ」と少女はいいました。
そこで大きめの農家にやってくると、ドロシーは大胆に戸口にいって戸を叩きました。婦人がかろうじて外が見えるくらいに戸を開き、こう言いました。
「何の用だね、小さいの。それとあのでかいライオンは何をしてるんだい?」
「お許しいただければ一晩泊めていただきたいんですけど。それとライオンはあたしの友だちで同志ですし、絶対に危害を加えたりはしません」
「おとなしいかい?」と婦人はもう少しだけ戸を開けました。
「そりゃもう。それにとっても臆病なんですよ。あなたがライオンをこわがるよりも、ライオンのほうがあなたをこわがってるんです」
婦人は思案して、もう一度ライオンを見ました。「ふむ。そういうことならお入り。ごはんと寝るところをあげよう」
そこでみんな家に入りましたが、そこには婦人のほかに子供ふたりと男性がおりました。男性は脚にけがをしていて、すみの長いすに横になっています。みんなこんな不思議な一行を見てとても驚いておりまして、婦人が忙しくテーブルの用意をする間、男性がたずねました。
「みんな、どこへいくんだね?」
「エメラルドの都です。えらいオズに会うんです」とドロシー。
男性は声をあげました。「ああなるほど! でもオズは本当に会ってくれるのかい?」
「会わないとでも?」
「だって、オズは絶対にだれにも会わないと言われているだよ。わたしはエメラルドの都には何度もったし、美しくてすばらしいところだよ。でも一度もえらいオズにはあわせてもらえなかったし、生きている人でオズに会ったという人もだれも知らん」
「オズは外には出ないんですか?」とかかし。
「決して。毎日宮殿の大きな玉座の間にすわって、身の回りの世話をする人たちでも、直接顔を合わせることはないそうだよ」
「どんな人なんですか?」と少女。
「それはなかなか答えにくいな」と男性は考え込んでいいました。「つまりオズはえらい魔法使いなので、どんな姿にでもなれるんだよ。だからある人は、鳥みたいだという。ある人はゾウみたいだと。ネコみたいだという人もいる。美しい妖精の姿だったり、お菓子になったり、思いのままどんな姿にでもなるんだ。でも本当のオズが、その本来の姿のときに何者なのかは、生きている人で知る者はないんだ」
「それはとても不思議ね。でも何とかして会わないと。さもないとこれまでの旅が無駄になっちゃうわ」とドロシー。
「どうしておそろしいオズに会いたいんだね?」と男性。
「ぼくは脳みそをもらいたいんです」とかかしは熱心に言いました。
「ああ、オズなら簡単なことだろう。自分で要るよりたくさん脳みそを持ってるんだから」男性はきっぱりと言います。
「わたしは心がもらえないかと」とブリキの木こり。
「造作もないこと。オズはありとあらゆる大きさと形の心を集めてるから」と男性は続けます。
「そしてわたしは勇気がもらいたい」と臆病ライオン。
「オズは玉座の間で勇気を大きなおなべに入れてあるんだ。そして金のお皿でふたをして、あふれないようにしてある。喜んであんたにわけてくれるだろう」
「そしてあたしはカンザスに送り返してほしいんです」とドロシー。
「カンザスってどこ?」と男性はびっくりしてたずねました。
「わかんないんです」ドロシーは悲しそうに言います。「でもあたしのおうちで、どっかにはあるはずなんです」
「なるほどそうだろう。まあオズならなんでもできる。だからカンザスも見つけてくれるだろう。でもまずはオズに会わないとな。これはなかなかむずかしい。大魔法使いはだれにも会いたがらないし、いつも自分の流儀を通すお方だからな。ところでおまえは何がほしいんだい?」と男は、続けてトトに話しかけました。トトはしっぽをふっただけでした。というのも、こう言うのも変な話ですが、トトはしゃべれなかったのです。
ここで婦人が、夕食ができたと呼びましたので、みんなテーブルのまわりに集まりまして、ドロシーはおいしいおかゆと、いりたまごと、すてきな白パンを食べ、食事を楽しみました。ライオンもおかゆを少し食べましたが、気に入らず、これは大麦でできているが大麦はウマの食べ物であってライオン向きじゃないと言いました。かかしとブリキの木こりは何も食べません。トトは何でも少しずつ食べて、またおいしい夕食にありつけたのでありがたく思っていました。
さて婦人は今度はドロシーに眠るベッドを与えてくれまして、トトはその横に寝て、ライオンはその部屋の入り口をまもって邪魔されないようにしました。かかしとブリキの木こりはすみに立って一晩中静かにしていましたが、もちろん眠りはしませんでした。
翌朝、日が昇ると同時に、みんな出発して、やがて前方の空に美しい緑の輝きが見えてきました。
「あれがエメラルドの都にちがいないわ」とドロシー。
歩き続けると、その緑の輝きはますます明るくなって、ついに旅も終わりに近づいているようでした。でも、都をとりまく大きな壁にたどりついたのは、午後になってからのことでした。壁は高く分厚く、まばゆい緑でした。
その前の、黄色いれんがの道の終点には大きな門があって、一面にエメラルドがちりばめられて、太陽の中でぎらぎら輝いたので、絵の具で描いただけのかかしの目ですらくらみそうになったほどです。
門の横には呼び鈴があって、ドロシーがボタンを押すと、中で金属っぽいカラカラいう音が聞こえました。すると大きな門がゆっくりと左右に開いて、みんなが中に入ると、そこは天井の高いアーチになった部屋で、その壁も無数のエメラルドで輝いています。
目の前にいるのはマンチキンたちと同じくらいの大きさの小男でした。頭のてっぺんからつま先まで全身緑ずくめで、肌の色さえちょっと緑がかっていました。その横には大きな緑の箱がありました。
ドロシーと仲間たちを見て、その人がこう言いました。
「エメラルドの都に何のご用かな?」
「えらいオズにお目にかかりにきたんです」とドロシー。
男はこの答えにびっくりしすぎて、すわって考え込んでしまいました。
「オズにお目にかかりたいという人がきたのは何年ぶりだろうか」と、とまどって首をふっています。「オズは強力でおそろしい方だし、大魔法使いの賢い思索をどうでもいいつまらない雑用でじゃましにきたら、腹を立てて一瞬であんたたちを消し去ってしまうかもしれんぞ」
「でもつまらない雑用じゃないし、どうでもよくなんかないんです」とかかしは答えました。「だいじな用なんです。それにオズはよい魔法使いだとききました」
「確かにその通り」と緑の男は言います。「そしてエメラルドの都を賢く立派に治めておいでだ。でも正直でない者や、好奇心で会いたがる者に対してはとても恐ろしいので、直接会いたいと頼む勇気を持った人はほとんどいない。わしは門の守備兵で、あんたたちが大オズに会いたいというからには、宮殿にお連れしなければならん。でもまずはこのメガネをかけていただこう」
「どうして?」とドロシーはききました。
「メガネをしないと、エメラルドの都のまばゆさと栄光で目がつぶれてしまうんだよ。都に暮らす人々でさえ、昼も夜もメガネをせにゃならん。みんな鍵をかけてあるんだ。都が最初に作られたときにオズがそう命じたからな。はずすための鍵を持っているのはわしだけだ」
そして大きな箱を開けると、それはあらゆる形と大きさのメガネでいっぱいでした。どれも緑のガラスがはまっています。門の守備兵は、ドロシーにぴったりのものを見つけてかけさせました。金のベルトが二本、頭のうしろにまわるようになっていて、それを閉める鍵は、門の守備兵が首にかけた鎖につながっているのでした。それをかけると、ドロシーがはずしたくてもはずせなかったのですが、でももちろんエメラルドの